Akiapola'au

読んだ本のメモ ネタバレは自衛してください

2024/1

1/3

ゆずソフト『DRACU-RIOT!』

OP が……よすぎる!!
ヴァンパイアものといったら安直にチェンバロがチャラリロのゴシックメタルだろと思っているところに小気味よいギターのカッティングからノリノリのスカが流れ出してくるの反則だ。Scarlet だからスカなのか?
怪しく焦らすような歌唱と煽り続けるホーンセクションの A メロ B メロがサビでいっきにコテコテのエロゲ OP 歌謡曲になるのも、ゲーム全体がどのルートも小難しい事件から剛腕なハッピーエンドにもっていってることを考えると妙に照応している。考えすぎか……。

共通部分はこのブランドにしては珍しく次が気になる(=どうでもよくない)いい塩梅のサスペンスで、やっぱり主人公が警察っぽい治安維持部隊ってのがオーソドックスに便利な設定なんだね。RIDDLE JOKER は主人公がスパイとして潜入ミッションやるからアホなことやってると興ざめしてしまったが、警察はわからんことだらけで敵に翻弄されててもべつに不快にならないし。そもそも佑斗くんは無能じゃないしな。でもこの世界学校行きながら仕事もバリバリやらされるの厳しすぎる。死んじゃうよ!
吸血鬼にも効くらしい麻薬の捜査が完全に解決とはいかないまでもひと段落したところで共通終了。

美羽
エロゲーの告白シーンってフラグが立ち切った女の子がなんかの胸キュンイベントの折に意を決して告白しようとしたところこれまでめちゃくちゃ鈍感だった主人公がなぜか超テレパシーを発揮して「待って、その先は俺に言わせて」みたいなかんじが大半でダルい(さっさと終わらせてイチャラブしてほしい)ことが多いが、美羽さんの告白シーンは暴力的でとてもよかった。主人公がごちゃごちゃ喋ろうとするとべろちゅーで黙らせてくるヒロイン、つよい。うるせ~知らね~𝑷𝑬𝑵𝑨𝑳𝑻𝒀 𝑲𝑰𝑺𝑺
暴動が起こってそこに付け込んで悪いことしてくるめちゃくちゃ悪い日本の政治家たちにはかなりウケというかんじだがミサイル打ち込んでくるくらいなのでこれはもうそういうタイプのギャグだろう。石破ラブラブ天驚拳!
エリナが自己犠牲でジャミング装置を見つけ出すとことか、倒壊した倉庫に生き埋めになった少女を助けるために吸血鬼も人間も一丸となって救助にあたるとこはシンプルに胸熱でいいね。でもこのゲーム(というかこのブランド)こんなこといったら/やったら差別されるカモ……→おれ(たち)はそんなの気にしてないぜ! 仲間だろ! のパターン多すぎないか? まぁ仲間だろ! に至るまでの過程が大事なので、パターンだからダメということもないのだが。


なんかよくわからんゲイとよくわからんおばさんのよくわからん過去の話がちんたら続いてよくわかんなかった笑
名探偵オタクたちによればこれもさいろー氏担当テキストらしい。たしかに……シーンのこってりさは群を抜いてるよね。

二コラ
なんか……立ち絵からいい匂いがする!(キモい発言)
シナリオはほとんどのーぶるわーくすだが(おじいさまが出てきてうんたらかんたら)、なんか共通の序盤に出てきたどうでもいい設定を使って詐欺師っぽい勝ち方をするのはちょっとおもしろかった。ゼロ年代ラノベの特殊能力はないけど頭の回る主人公が口先だけで勝つ展開みたいだ。

エリナ
オッ……下ネタばっかいうキャラに悲しき過去ありパターンや!
向こうからぐいぐい来るヒロインと仲良くなるまではおもしろかったがロシアがうんぬんとか言い出してからやや退屈になってしまった。
笑い方がにひひで髪の毛が銀色で観覧車に乗って下ネタ好きでこの声だと……誰とはいわないけれど思い出してしまうな。

莉音
似通った境遇で惹かれあって、じつは似通っていたのは偶然ではなかったことになるのはけっこう納得感がつよい。偶然じゃない類似性以外にもクソ映画好きみたいなまったくの偶然による類似性もあるのでけっきょくのところシンプルにお似合いでしたねという話なのだが。グランドルートっぽいかんじだ。でも伏線回収のせいで後半萌えがじゃっかん犠牲になっているような……。千恋のレナルートもそんなかんじでしたが。
このキャラ付けなら無知シチュとかあるのかな~と思ったらそういうのはなかった。まぁ無知シチュって一種無理やり感出ちゃうからゆずでやるのは厳しかろう。
一教です! のところは素直にかっこよかった。オッ……って聲(こえ)出た。

総評
OP はよかったんだけど、OP のアレンジの BGM が多すぎる & OP のフレーズのアレンジは BGM に向いてないため、流れるたびにうーん苦手だとなる BGM が多かった。うーん。
シリアスと恋愛のバランスはいままでやってきたゆずのなかでいちばんよかったきがする。こんくらいイチャイチャの邪魔にならないがつまらなくはないシリアスがいちばんいいんだよ。われわれ(主語デカ)はエッチもするライトノベルが読みたかったのだなぁというのが強く意識された。

1/5

廣田龍平『〈怪奇的で不思議なもの〉の人類学』(青土社)

前半はけっこういってることが難しい(し、竹を割ったようにすっぱりした結論が出るわけでもない)ので歯ごたえがあるが後半の個別事例の話はめっぽうおもしろい。股のぞきの類例を世界中から集めてくるところめちゃ気合を感じる。
ダストン&ギャリソンが妖怪の論文に出てくるの予想外すぎる。

1/8

ゆずソフト『天色*アイルノーツ』

インタ~ネットの評判だとあんまりいいうわさを聞かなかったので最後に*1回してしまったが、ところがどっこいぜんぜん楽しめました。空に浮かぶ島って設定が生かされてないとか教師であることの逡巡がないとかそういうのが弱みとしてよくいわれてるみたいだが、空にウキウキ*あまいろ新生活!というコンセプトは完遂していたのでとくに不満ではなかった。べつに学園の抱える闇とか空に浮かぶ島の驚くべき来歴とかが明らかになってほしいとかそーゆーのないしな。そーゆーまじめなのがやりたかったらかにしのやユースティアをやればよい。
ファンタジー設定を出す場合、

  1. 舞台は完全にファンタジーな世界で主人公もファンタジー世界ネイティブ
  2. 完全にファンタジーな世界に現実世界の人間である主人公(たち)が入っていく
  3. ファンタジーな世界と現実世界が並んで存在していて、同質化はしない程度には境界があるが、互いの存在を認知しており(あるいは片方が片方を一方的に認知しており)、行き来もある程度簡単にできる
  4. 現実世界にファンタジー世界の住人が入ってくる
  5. ファンタジーな世界があるわけではないが、現実世界らしき世界にファンタジーな要素が溶け込んでいる
  6. 主人公のまわりでだけファンタジーなできごとが起こる

みたいなグラデーションが考えられるが、「空に浮かぶ島」という設定はおよそ 3. くらいの世界観で話をやろうと考えたためにでてきたものだろう。物語の舞台やヒロインたちは適度にエキゾチックであってほしいが、価値観や文化の面で断絶や孤立感を覚えるほど隔たっていては欲しくないのである。そういう意味で空に浮かぶ島が現れて三十年、というのはいい案配だ。たとえば「鏡の向こう」とか「衣装箪笥のなか」にライゼルグがあったってよかったのだが、そうするとどうも異世界感が強くなりすぎるかんじがあるし。

共通
なにか解決すべき事件もなく、主人公にもとくに目標らしきものもなく、みんなで目指すイベントもないので、漫然と盗撮魔を追ってキャンプ行ってカレー作って親方! 空から女の子が! して終わり。純度 100 % の美少女動物園が楽しめる。

夕音
ファンタジー設定はかんぜんに死滅しているが単純に青春ものとしてみればけっこういい話だ。スポーツで挫折した女の子が他者に求められることに逃避先を見出していたけどなんやかやあってじぶんで頑張っていけるようになる話。
夕音にまたやる気を出してもらうために先生も背面飛びを練習するあたりからはなかなか感動的だ。
バーなしとはいえ初めて飛んで見せた先生の、

「見える物が空だけで他には何も見えなくなって、身体は地面から離れて……本当に、まるで空を飛んでいるみたいだったんだ。」

という感想と、それに対する夕音の

本当は体を反らせるので、空を見るのではなく、真後ろを見るぐらいでないといけないのですが……。
でも言えませんでした。先生の笑顔を前にしたら……。

という声には出せなかった反応。慣れと挫折と怪我のせいで高跳びの楽しみを見失っていた夕音に、みずからやってみせることで新鮮な楽しみを思い出させる教師の鑑! このあたりはややノーベル文学賞。
主人公のがんばりを見て思うところのあった夕音がひさしぶりにジャンプに挑戦して、でもブランクもあったからやっぱり失敗してしまって、マットに倒れこんだときの

「空って……こんなに明るくて……近かったんですね……」

という発言はかんぜんにノーベル文学賞。さいしょにファンタジー設定は死滅してるとかいったけれど、にもかかわらず「空に浮かぶ」島という設定をいちばんうまく使ってるのはこのゲーム全体を通してここだったといって間違いない。空に浮かぶ島のファンタジー的な背景なんてどうでもいいんですよ、そんなことより、空に浮かぶ島は空に浮かんでるんだから、空に物理的に、、、、近いんですよ――という逆転の発想、というか開き直りが見事にキマっている。空に浮かぶ島という設定が与えられたときに、ヒロインにハイジャンプをさせればこうやって感動的なシーンが書けると発想できるのはほんとうに天才だ。
先生のシャツの臭い嗅いでオナニーはじめるあたりは田山花袋を感じた(逆だろ!)。このゲームでいちばんえっちな CG だと思う。髪の乱れ方とか……。でもシャツを使うのはギリいいとして、枕を使うのはやめてあげてほしいと思った。洗濯したとしても……なんかやじゃん。
奉仕属性ありなのに初手足舐めさせられるギャップとかもかなりよかった。

木乃香
名前がなんかミイラっぽい。
正直あんまり教師と生徒っぽいかんじもなく、彷徨人がどうこうみたいなのもわりとどうでもいい話で、タイムスリップ……? はにゃ……? というかんじで終わってしまった。共通やほかのヒロインのルートにいてもなんか変なしゃべり方の褐色いるな~ってかんじでこのゲームにおいてこの人がなんなのかよくわからない。ミサカはミサカは……。

ティア
いちばん小説っぽいルートだ。
やっぱり白眉は歌垣みたいなエルフのお見合い制度の使い方。お見合いに参加することになって、その前に恋愛のお試しをしてみませんか?というところから交際もどきがスタートする。あ~わかりやすく告白からの交際みたいな流れを取らないタイプね。う~ん、いいね! のーぶるわーくすの静流ルートも交際といずれくる朱里への引き継ぎがセットで考えられていて、いいかんじになるのにいずれこの幸せは手放さなきゃいけない!みたいなタイプの条件が付いている恋愛における葛藤がさいろー氏は得意なんだろうな(勝手にさいろー氏担当ルートだと思い込んでいる)。 で、お見合いは自分が結婚において重視する価値観に沿った花言葉に基づいて二種類の花を選んでランタンを作り、それに対応する花言葉を持つ二種類の花でランタンを作った相手とカップル成立するという仕組みらしい。
ここでティア先生は対応する二種類の花を同時に用意することが季節の関係で不可能になってしまう組み合わせの花でランタンを作ることで、お見合い制度への拒否を突き付けるわけ。けっきょくこれはエルフ社会とその文化の否定でもあるんだけど、そこはそれ、透先生がエルフの花言葉と人の花言葉のミックスでフラワーランタンを作ることで対応する花が存在しない問題をクリアして、異種族間融和が図られるという。う~~~~ん、ファンタジー世界の設定をうまく作ってうまく利用してきれいに話をオトすの、天才!!
エルフの男性と婚活デートのはずがすっぽかされてしまったティア先生のもとに花束を持って透先生が現れたときのセリフ、これとまったくおなじセリフがラストシーンでも用いられてるんですよね。あああ~~~まったくおなじセリフが意味だけ変えて二回出てくる作品~~~~好きすぎる~~。

愛莉
なんかキャラの性格ちがくない?笑
愛莉は頭おかしくなりすぎだし、真咲は口悪くなりすぎだし……。
おれにはなにもない……をヒロインにやられても反応に困る。
シーン数でもサブヒロインのティア先生に負けてるしなんなんだ。

シャーリィ
うりしゃり先生がこの世界がはかないものならこの世界でなにごとかをなしたとてなんの意味があろう……と悩みだすところはかなり人生の意味の哲学をかんじた。これに胡蝶の夢で返す先生もよくわからないが、まぁ感動的だし、いいか!
シャーリィ自体のメンタルケアは早々に終わって主人公の抱える問題を解決するのがルート後半。全員善人の圧倒的暖かさ! シナリオ作りのひとつの極致ではあろうな。あたしも性格悪い寄り人間ではあるが、こういうのを受け入れられなくなったら人生終わりの始まりだと思う。まだ涙を流せたので人間にとどまっていることが確認できてよかったです。え~、こんかいはノーベル文学賞じゃなくてノーベル平和賞を授賞しておきます。

真咲
セリアンスロープ、肉食獣っぽいのに盲腸なるんだ……。
発情って扱いが難しくて、一回発情すると数時間とか数日とか一定期間性欲が強くなって、時間さえ経てば常態に戻るというのがたいていの場合だけど(だからこそギャップ萌えとかドタバタが楽しめるわけ。綾地さんはこっちだった。)、セリアンスロープの場合発情といっても恋の季節的なわりとほんらいの獣に近い発情らしく、期間中は長期にわたって性格が変わってしまう。共通やほかのルートでは意外と常識人だった真咲さんが首輪とか言い出すのを受け入れられるかどうか、ですよね。あたしは常識人寄りの真咲さんが好きだったんだけど……。
ともかく、発情した気持ちを無理に鎮めると二度と恋ができなくなってしまう、そうさせないためには無理に鎮めない――つまりきちんとフッてあげる必要がある――というのはかなりなるほどだ。うーん、ノーベル生理学賞をあげとくか。で、けっきょくフラないで正式に付き合ってあげて、先生と生徒であることは周囲に隠していくというなぁなぁな方針でやっていこうやみたいな "いい加減" なオチになる。告白する前にセックスしてしまう(ゆずにしては珍しい!)展開だったり、真咲の両親が結婚していなかったことといい、なんか妙にリアルというか、(発情期とかいっておきながらリアルもなにもないだろうというきはするが、)政治的に認可されたロマンティックラブイデオロギーの型にはまらなさのあるシナリオではあった。
あと奇しくも同じ構えな立ち絵ポーズ差分がある。オドろいたねェボウヤ。

総評
音楽がよかった。前作とは打って変わって癖のないオケ系の BGM は物語を邪魔しない。
教師と生徒の禁断の……みたいなのもあたしはたぶんかったるいと思っちゃうからこんくらいの扱いでちょうどよかった。だいたいさあ、作中でもいってたけど教師が生徒に手出しちゃいけないみたいなのも、けっきょく世の中の教師はよく生徒に手出しちゃうからそういわれてるわけで、ようするにダチョウ倶楽部なんだよな。教師が生徒に手を出すのはよくあることで、倫理的にまずいことは変わらないが、そこに背徳感なんてないわけ。われわれは背徳感に興奮するのであって規範に反することであればなんでも興奮するわけではない(反規範的なことであればなんでも興奮するひともいるだろうが*2……)んだから、付き合う前のスパイスくらいには用いても、付き合い始めたらそんなに引っ張らないで流すこのくらいの温度感が最適だ。
ファンタジー設定も作りこんだ挙句伏線回収ルートが出来て当該ルートのヒロインが割を食うよりはこのくらいてきとうでいいんじゃないかな。みんなはどうおもう?

1/10

エリック・マコーマック『ミステリウム』(創元ライブラリ)

う~ん。メタミステリみたいなのなにがおもろいのかよくわかってないんですよね。そもそもミステリ作家がみんながんばってるのは意外性と説得力の両立なのに、なぜかミステリまじめに書いたこともない評論家とか現代文学者とか一部のミステリ作家はミステリの弱点を「文章だけで構築された世界で真実などあり得ないのにミステリはそれを追及している(ように見える!)」というパラドックスにあると思い込んでいる。ばかばかしい! そんなものが哲学の文脈以外でまじめに問題になったことなどない。目指してないことについて弱点扱いされてもねえ。
ところで、信頼できない語り手ものって語り手の精神の弱さや傷つきやすさに由来するもの(フォード・マドックス・フォードだ)から 20 世紀を通してどんどん悪意や技巧に寄っていったけど、後者に行けば行くほどついていけなくなる。ミステリウムはどうかといえば登場人物たちが隠しているのはたしかにかれらの弱さで、じゃあ前者よりなのかといえば人工的(というかほとんどぎこちない)プロットのせいでどうにも後者っぽく見えてしまう。
どうせわからないなら真実なんて重要じゃないというのはもうじゃあそれでいいよといっても真実以外に重要なもの、おもしろいものが出てこないとなにもかもどうでもよくなっちゃうな。死にかけの関係者に話を聞きに行く展開がたらたら連続する小説読んでなにが楽しいねん。NTR やるならもっと真剣にやらんかい。

1/11

夏海公司『セピア×セパレート 復活停止』(電撃文庫)

人格をデータ化してクラウドにバックアップして人体はバイオ 3D プリンターで出力するから死んでも復活できるよ系で、設定自体は目新しくはないが(量を詰め込んでるから楽しいけどね)、テンポよく予想外のことが起きるのでかなりおもしろいサスペンスになっている。序盤はなんでもできる毒舌の美女と振り回され青年のパターンで夏海先生またですか!とおもわなくもなかったけど、後半でいいところをみせる主人公で最後までいつものパターンだったか!となった。
ていうか挿絵少なすぎて幾ちゃんの見た目わかんないんだけどどうなってるんですか? なんかコルヌトピアっぽいスパコンでてきてややウケ。
で、設定は目新しくはない……といったものの、後半この超技術の由来が宇宙的に説明される。なんと人格バックアップ技術は異星からのランサムウェアだったのだ! 人格をさんざっぱらクラウドにアップロードさせたら容れ物(肉体)との連携を切って身代金を要求するというわけ。なるほど~おもしろい。
そこまで人類をよいように操れるならそもそもこんな回りくどいことしないで人類を奴隷化しちゃえばよくないと思わなくもなくもないが、異星人も人類の人格をデータ化することはできてもそれを自由に書き換えたり操ったりすることはできないかんじの技術力だということかもしれない。
けっきょくヴォネガットの「衣替えには」とかマシュー・ベイカーの「変転」みたいに*3、むしろ体棄てたほうがよくね笑みたいな勢力にランサムウェアは悪用されてしまう。みんなメタバースで暮らそう!
セピアが肉体を伴った人類を守る理由が明らかになるところもひねりが効いてておもしろい。三角形が神を知るとしたら神は三角形をしているだろうみたいなあれですね。
しかしめちゃ防御力が高い敵に一発ではダメでもおなじ場所を千発殴れば勝てる!とか言い出すところニンジャスレイヤーすぎる。
主人公がエンジニアという職業に惹かれた理由――懐かないから嫌いだった犬がじぶんをかばって交通事故死したことで、割り切れないこと、仕組みがわからないことが苦手になった――とかウロさんが自我を失いたいと思ってる理由とか、ちゃんと登場人物に背景が作ってあるのも手堅くて好印象。夏海公司のおもしろい小説はいい意味で再現性がありそうなおもしろさで好きだ。
ていうかなんか電撃で出したやつの方がハヤカワ JA っぽくてハヤカワで出したやつが電撃っぽいね。

1/12

夜方宵『探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。』(MF 文庫 J)

ほんとうに最悪だった。金とっていいレベルじゃない。
キャラクターが記号化するどころかもう変な口調しか残っていない。ハルヒとか空色パンデミックの妄想を現実にする異能と実存的な悩みみたいな物語から異能だけを抽出する絶望的なまでのセンスのなさ*4! ヒロインに内面がなければ主人公にももちろん内面はない。すべてのギャグは上滑りし、小説としては芯や核がいっさい存在しないし、ミステリー部分は貧弱未満だ。ガバガバアナグラムやめろ!
ラブコメミステリとか帯に書いてあるからノリで買ったのが間違いだった。現代ライトノベルの平均点がどのくらいなのかよくわかっていない(むかしから知ってる作家かよほど評判がいいやつしかふだんは買わないので)が、こんな本ばっかり作ってたらこの国はおしまいだ。べつにつまらない小説が世の中にあること自体はどうでもいいが、こういう読者をバカにしたつまらなさは積極的に悪いとしかいいようがない。帯でこれ褒めてた人たちは全員妹を人質に取られてるんですか?

ぱれっと『9-nine-』シリーズ

結論からいうとシリーズぜんぶめちゃくちゃおもしろかった。みんなもやったほうがいいよ! わたしはあらすじとかまったく知らん状態で(これは嘘、沢澤ボイスの妹が出てくることだけは知ってた)おもしろいらしいという噂だけを頼りに買ったが、やっぱりフィクションはなんもしらん状態ではじめるのがいちばん楽しいですね。
みんなにもやってほしいからネタバレなし紹介とネタバレあり感想の二階建てにしようかと思ったけど、ネタバレなし紹介とかもみないでやったほうがいいね。なのでやっぱりいきなりネタバレありです。

1/11

ぱれっと『9-nine- ここのつここのかここのいろ』

導入ではひねたかんじの主人公、斜に構えたかんじの学校の先生、女子ランキングとか作ってそうな親友ポジとわりと苦手がちな要素が続いて、いつ面白くなるねん~と思っていたが、開始二〇分くらいで石像出てきてとつぜんめっきり面白くなった。石化した人体って実物を見たらそりゃ怖いだろうが、絵だとただの石像の絵とあんま変わらないわけでそんなに怖くない、でも、石像に石化しきれなかった生爪が付いていて、それが剥がれ落ちて、血が流れ出すっていうひと工夫で絵でもめちゃめちゃ怖くなるな。
事情もわからぬまま妹を助けるために火のなかに飛び込む流れで主人公に対する評価もやるときはやるんじゃん……に変わり、「説明はあと!」で能力を披露するヒロインが現れてん~~~~~この展開嫌いなやつ世の中にそうそうおらんやろ。これで盛り上がらなかったらキンタマ*5生えてないね。は~おれの前にも説明はあとでっていいながら異能を披露する低身長巨乳社長令嬢が現れないとおかしいだろ。世の中どうなってんだよ。
でこっからはようするに強制 BAD からのループ展開なのだが、TRUE へ分岐する仕掛けが面白い。敵の攻撃に最適解を返したから都の命を守れたとかじゃなくて、都を攻略することがなんやかやで都の命を守ることにつながったという……。
希亜にかけられた疑いを晴らすために都が翔くんの記憶を読むわけだが、BAD では記憶を読まれる → 都があの炎使いを間接的に殺していたことが伝わってしまう → すれ違い発生、都は使命感に囚われて暴走して自滅、という流れが、TRUE では記憶を読まれる → 都に対する好意が伝わってしまう → ラブコメ展開!という流れに変わってしまう。おもろいなきみたち笑
ラブコメ展開は丁寧さ一本槍で攻めてきた感じで、バッドエンドとは違う形のすれ違いからの美麗 CG 連打で殴打されてるうちにこれがTRUE LOVEじゃなきゃなんだってんだよ状態にさせられてしまう。一作目からこんなに正妻でいいんですか! 九條都、正妻の概念が服着て歩いてるようなもんだろ。いや、そのうち脱ぐけどさ……。
石化事件の犯人(?)が自殺するあたりはちょっと拍子抜けだが、導入篇としてはこんなもんなのかもしれない。あたしはすぐ二作目に入れたからいいけどここから一年待たされた人たちは続編買うかどうか迷っただろうな。分割って難しいね。
ところで、メルクリウスの指で中に射精されたほにゃららをお腹から取り出すところは天才か?と大声で叫んでしまったが、これメルクリウスの指のことを当時の都は所有権を移転させる能力(それに伴って物体の移動や記憶の操作が発生する)だと認識していたことに鑑みれば、都はお腹の中にあるほにゃららをじぶんのものではなくまだ翔くんのものだと思っていたことになる!!!! どういうこと!??!?!? ドスケベすぎるだろ!!!!!!!
記憶を読んだときに盗み見た彼氏の妄想をプレイで実現したり、バイトの時間以外はずっとセックスしてたり、バイト先の制服ノリノリで使ったり、みゃーこ先輩はとにかくドスケベすぎる。加減しろ!
ちなみにみゃーこ先輩の ASMR は……音声作品であるという仕様上しかたないのかもしれないが、二人称が「あなた」で、いや……翔くんって呼んでくれよ……おれはみゃーこ先輩と翔くんが仲良くしてるのをみたいのであって……となってしまった。福圓美里萌え萌えボイス ASMR としては百点だが、みゃーこ先輩の ASMR としては……。

1/12

ぱれっと『9-nine- そらいろそらうたそらのおと』

はっきり申し上げてこのゲームをプレイしてから三週間くらいずっと新海天さんのことを考え続けている。
あたしはたとえばキャラを好きになるとしてもキャラそのものの魅力とかよりはストーリーがどうなっててそこでキャラはどう活かされててみたいなそっち系で*6、ようするに好きなキャラができたとしても本編外の会話を想像して遊ぶとかそういうかんじにほとんどならない。ところが天はいまやすっかりあたしの頭の中に住まわっていて、油断すると翔の兄貴と中身のない会話を繰り広げている。恐ろしい話だ。
なんでそんなことになったかというとじぶんでもよくわかないが、天と翔の会話がノリはいいけどつまらなくて意味がないというのは大きいだろうなという気がする。翔の単調な返しに新しい笑いが生まれない!とかいって笑いにこだわってるはずの天ちゃんのツッコミもほとんどワンパターンで*7、兄妹の掛け合いはそんなに面白いものではない。でも家族の会話ってそういうものだ。距離の近い友達とか恋人とする無内容な会話よりもさらに自動的で、ハウスルールに沿った儀式としかいいようがなくて、それでもお互いに不満を抱いたり飽きたりすることを思いつきすらしないのが家族との会話というもので、天と翔の会話はまさにそういう意味で家族の会話だ。
家族の会話がなんでこんなにつまらない儀式なのかといえば、意味がなくなるくらい定型化することで、もし常態と異なることがあればすぐに察することができるようにだ。つまらない会話は日常が日常であることの絶え間ない証明なのだ。
だからこそアーティファクトの影響で天が消えかかるくだりは感動的なのだ。ふたりの定型的な、軽薄な、無内容なやり取りの歯車がずれていくことで、まさに翔は天の異常に気付くのだから。
ところで――じつは 9 そらいろはほかの三作とは明確に構造が異なっていて、というのも強制 BAD ではないのだ。初回プレイでも翔が選択を間違えなければ天が消えることはない*8。これはどういうことか?
ほかのルートで BAD エンドに至るのは大まかにいって敵のせいだ。敵の策を一周目では情報不足で上回ることができないから、BAD エンドを回避することができない。そこでナインであるわれわれが介入してあとから枝を剪定するのだ。しかし、天のバッドエンドへの道筋に敵なんてものはいない。アーティファクトの暴走は敵が仕組んだことではないからだ。
ようするに、天が消えるかどうかは、翔の自由意志に、そして自由意志にのみ任されている。このゲームのほかの選択肢はすべてナインとしてわれわれが後知恵で選ぶ選択肢か、その影響下にある翔の選択だが、「受け入れる」「受け入れない」のあの二択だけは、翔がじぶんだけでした選択なのだ。だから一周目でこの選択肢はすでに選択肢として表示されているのだ。
つまり、シリーズのほかの作品とはちがって、ナインであるわれわれなんていなくても、翔は天の異常に気付くことができるし、天を消滅の危機から救うことができる。お兄ちゃんが妹を助けるのに、おれたちなんて必要ないのだ。と、いうか、手出しをする余地すらないのだ。これが感動的でなくってなんなのだろう?
――というふうに考えてしまうと、無意味なつまらない会話そのものがかけがえのない尊さを持つようになってしまう。だからあたしの頭のなかでふたりは延々と意味のない会話を続けているのだ。

ASMR は二人称が「にぃに、にぃやん、お兄ちゃん」で安心した。妹キャラってこういうとき便利だな……。

1/13

ぱれっと『9-nine- はるいろはるこいはるのかぜ』

デカリボン・巨乳・インテーク! うーん五臓六腑に染み渡るキャラデザだ。
春風先輩の空気の読めなさがちゃんと徹底されてて、告白シーンがあんなことになってしまうのはけっこう好き。
序盤は敵組織潜入もの+恋人のフリというのでこういうのでいいんだよなこういうのでというかんじ。王道だ。巨乳が好きすぎるうえに戦闘能力が皆無なので敵に信用される主人公って……。
全貌がみえてくる快感とヒロインたちの能力が嚙み合って強敵を倒す展開があいまって起承転結の転としてきっちり盛り上げてくれる。春風先輩の精神的成長もみててほほえましい。成長しても空気読めないオタク気質はまったく治らないのだが。
イーリス戦終わったあとにラブをやるのはまぁよいとしても昔イジメてたやつが出てくるのは展開としてちょっと陳腐でうーん。
えっちなシーンはまた能力で避妊する流れで笑ってしまった。お前らアーティファクトをなんだと思ってるんだよ。

1/14

ぱれっと『9-nine- ゆきいろゆきはなゆきのあと』

ここまでの三作で希亜にあんまりピンときてなかったから個別ルートでどうなるんやと思ったら古典的なギャップ萌えであんまり琴線には触れなかった。
とはいえ偽 ED からの巻き戻し演出、再敗北からの強制オートで鳥肌ずっと立ってた。
罪人だと認識した相手に量刑自由の刑罰を与えられるの、目隠ししてないユースティティアみたいなもんでどこが正義なんじゃいというかんじだが、そのへんは希亜もわかっていて、だから彼女の能力はジャッジメントじゃなくてパニッシュメントなんですな。
捨環戦を互いに仕掛けあうことになれば、勝利条件は相手の心を折ることになるのはとうぜんだ。そういえば復活のルルーシュってどうやって勝ったんだっけ。忘れちゃった。
でもゆきいろは希亜との事後を天に見られるって展開を入れてきたから許せない。天ちゃんがかわいそうだろ!!!!!!!!

1/14

ぱれっと『9-nine- 新章』

天ちゃんのドンキナースコスで魂抜かれてしまいました。でもドンキにそんなに縫製がよさそうなコスプレ売ってるわけないだろ。
都 BAD だけどうにもなっていなかったのをまず救済しに行くという話で、一作目だからしょうがないとはいえ不完全燃焼だったここいろを完成させてくれるのはありがたい。都の力がじつは王権だったというのはびっくりだ。でも都が王なのはとうぜんか。その住むところが都になるのが王なんだから。
各アフターはちょっと分量が少ないというか、どう考えても全年齢ではない使い方をする想定の新規コス CG が想定通りの使われ方をしてさえいたら……と思わざるを得なかった。
さいごソフィに会いに行けるのは完全に(ここから別作品のネタバレ)古色迷宮輪舞曲(ここまで)オマージュでワロタ。
このゲームはループものあるあるの廃棄された世界線かわいそすぎ問題とかグランドエンド以外はけっきょくのところ if に過ぎない問題とかを強引な力技(ナインによる剪定と介入)でできる限り八方良しにすることに全力を注いでいて、どのヒロインを好きになっても損をさせられることがない。異能バトルのシナリオゲーの皮を被ったキャラゲーとしての面目躍如だ。

1/18

ウィリアム・フォークナー『野生の棕櫚』(中公文庫)

王道といってもいい不倫と金の話。人妻と不倫するのに安ホテルに連れ込んだらがっかりされるが、ゴミ箱から 1,700 ドル入った財布拾って逆転駆け落ちするくだり、ここがまじめな自然派の作家だったら持ってた株が値上がりしたとか遺産が入ったとかいろいろちゃんと屁理屈をつけるところだな……と思った。フォークナーはお金のことを数字を伴ったなんらかの力くらいにしか考えてなさそうなのがよくわかる。ハリーが生活を立て直そうとするとシャーロットは安定した暮らしがしたいだけだったらまだ夫の元にいるわよみたいなことをいう割に、このふたりが愛に生きてる感もぜんぜんないのがかわいそうなところだ。
愛や自由を追いかけても社会や金に翻弄されて追い求めていたものもすり減って、牢屋に入ることを自主的に選択することを強制されるよという性根が敗北マゾなかんじ。フォークナーは弁護士に寝取られた幼馴染とそのあとなんやかやあって寝取り返したみたいな話しか知らなかったので、ハリウッドで脚本書いてた頃に不倫してた(この経験が野生の棕櫚に反映されているらしい)というのははじめて知った。うーん、敗北マゾになりそうな恋愛遍歴だ……(作家の生涯から印象を邪推する低レベルな読み方)。でもハリーがエロ手記を捏造・乱造して雑誌に投稿して金稼ぎしてたってとこはハリウッド経験のことだろ。ハリウッドの仕事、フォークナー的にはこういう認識やったんやね……。
ところでフォークナーが金のことをなんらかのパワーくらいにしか考えてなさそうとか先にいったのだが、なんかそれもわざとかもしれないと思えてきた。ハリーもシャーロットも金の稼ぎ方が行き当たりばったりでまったく資本主義的でなく(エロ手記を雑誌に売ったり、手製の彫像を売ったり、そーゆーのだ)、この小説は 20 世紀初頭の世界の変化になじめなかったひとたちの話なのかもとかてきとうなことを思った。金とか世間体とか、頭の上で空回りする人間とは別様の仕組みで動く何者かへの適応とその失敗を書いたのかもみたいな。いっぽうほぼ同時期の『ミルドレッド・ピアース』はものすごい資本主義的な主人公だったわけで、明暗だ。
川の方の話はなんかあんま面白くなかった笑

1/19

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 絶滅前線』(ガガガ文庫)

十年ぶりくらいに再読。お、おもしろすぎる!!
停時フィールドっていう発明がほんとに発明だよね*9。停時ものの九割はやらせ。殺戮因果連鎖憑依体もその討伐方法も発明だ。ついでにいえば赤鬼と青鬼の区別も発明だ。
ところで阿黍が久遠棺をずっと使えなかったのは荻窪童子を保管してたからということだが、荻窪童子より阿黍のほうが強そうだし、ほかの職員の停時フィールドには保管に役立ちそうなやついなかったのか?
 

1/20

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 2 夏の終わり』(ガガガ文庫)

リアルタイムで読んでたのはここまでっぽい。
2 巻の絶望感じゃない! 青鬼専門封跋員のめちゃくちゃかっこいい棺をまともに活躍もさせず使い捨てるのがすごいバランス感覚だ。
姥山がいいキャラしとる。

1/20

UNiSONSHIFT:Blossom『時計仕掛けのレイライン -黄昏時の境界線-』

伏線回収がすごいみたいなのだけ聞いてやりはじめた。三部作で 3,000 円だったし……。なんか勝手に水の都みたいなとこが舞台なんだろと思ってましたがそれは水葬銀貨のイストリアのあらすじだった。ぜんぜんタイトル似てへんやんけ。
しかし一作目は……苦行だ……。憂緒以外の個別ルートがほんとに苦行すぎる。いや別に本筋も楽しくはないが……憂緒ルートもなんかちょっと無理矢理っぽくて現代人としてはちょっと身構えちゃうしな。ていうか眠子ルートってこれ……西寮の生徒の真相を考えると……恐ろしいことに……(葵ちゃんかわいそう)。
遺品の問題解決もミステリとしてはあんまり頑張っているという感じもしないし、遺品を呼び寄せてしまった生徒たちの望みみたいなのもとくに感動的な感じになるわけでもない。伏線撒いてるあいだこれでひまつぶししといてくださいねレベルだったのは残念だ。
でもスミちゃんのくだりはまあまあよかったね。

1/21

UNiSONSHIFT:Blossom『時計仕掛けのレイライン -残影の夜が明ける時-』

後半――というかⅥ章からの展開はさすがに手に汗握った。
魔法陣をタイムリミットまでに破壊せよという緊迫感のあるミッションをこなしつつみんなに見せ場を作っていくのはちゃんとしたラノベっぽくてやっぱり盛り上がる。静春ちゃんこんなんもうほとんど主人公だろ。
さいごのおまるが消えるところは怒涛の CG 連打でやや覚悟していたもののやっぱり驚きだ。ふつうのゲームなら消えた仲間を取り戻すためにがんばるぞというので続編につながるところ、おまるの覚悟を無駄にしないためにも夜の生徒たちをよみがえらせるのをなんとしても阻止するぞ、になるのがかっこいい。
お見舞いモー子のくだりの心理戦はオッ……このゲームもまじめにラブコメをやる気になってきたか……というのでとてもよかったです。

1/23

UNiSONSHIFT:Blossom『時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-』

魂を操るとか魔力のパスをつなぐとか便利な設定があとからでてきたなおいとか万能過去日記が万能すぎるなとか日記のシーン声も立ち絵もないのにシーン切り替わり処理多くてテンポ悪くて退屈だなとか主人公チームの方が敵より魔女多くて強そうだから強制退場させられるやつ多くね笑とかドイツから来た謎の恥さらし兄貴とかもうちょっとどうにかならんかったんか的な要素は多々ありつつ……。
ていうか日記の叙述トリックさあ、遺品が再構成した日記がなんで叙述トリックを仕掛けてくるんだよ。おかしいだろ。事情を知らない人が曖昧な記述を先入観で読んだからであってしょうがないんだけど、それにしたってこんな都合よくさぁ。
とはいえ保留がどうたらとかいいはじめたモー子はメインヒロインの風格がすごい。三作かけて徐々にデレさせる蛇口のひねり方は絶妙だ。
アフターで待望のリトさんルートがあって喜び勇んでプレイしたところ久我くんの人格がかなりおとなしいしいつものあいつらも出てこないしでなんか……違うかも……となってしまった。

1/22

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 3 狩人のサーカス』(ガガガ文庫)

もうほとんど鬼と戦ってなくて草
ようするに 3, 4 巻はループもののノベルゲーのバッドエンドなのだが、なまじ主人公チームに気概がありすぎるのでバッドエンドに至るまで 800 ページ使ってしまう。ふつうのバッドエンドは TRUE エンドの爽快感を増すための対比として悲惨になるが、エルピスのバッドエンドはそれ自体が娯楽に(も)なるようよく仕組まれた、突き抜けた悲惨さだ。だから 800 ページも読ませ続けることができる。

1/23

伊吹亜門『刀と傘』(東京創元社)

じつはあたしがはじめて買った電子書籍は……監獄者の殺人。へ~短篇を単話で売るとかあるんだと思った記憶がある。

「佐賀から来た男」
「外国語の文書」という現代であればグーグルレンズで瞬殺な物質がこの時代ならではのロジックで犯人特定に用いられるのがスマート。アリバイは……めんどくさくて読み飛ばしちゃった笑
「弾正台切腹事件」
まぁトリックはふんにゃかというかんじだしいまどき利き手うんぬんもなかろうというかんじだが、暗すぎる動機で結構が整っている。
「監獄舎の殺人」
やっぱりいちばんおもろいね。この時代特有のホワイダニットをやるある種の特殊設定ミステリだと思っていたら致死量未満の殺人が飛んできてこうオチるのは久しぶりに読み返しても天才だと思った。鳥肌立つよね。
「桜」
布団が八面六臂の大活躍! このへんから偽の手がかりとかなんかふつうの現代*10ミステリっぽいかんじに。しかしかつてその強さに惹かれた男が無残に負けて死ぬよりは本懐を遂げて死んだように偽装してやろう、という心の働きはなんだかいまいちよくわからない。計画を完遂したら、周囲に対しては四ノ切の体面を保つことができても、由羅のほうが四ノ切より強いということをじぶんに対して隠せなくなってしまうではないか? 強かったあの人の像を守るために、あの人をひとりではなにもできず、女に体面を守ってもらわなければならない弱者にするほうがつらいのではないか? もはや由羅のほうが四ノ切より強いからこそ四ノ切は殺されなければならなかったのかもしれないが。
監獄舎もそうだが、敵討ちに失敗することの恥や罪があまりにも大きすぎるから登場人物みんなバグってしまうみたいなのがそもそも書きたかったことなのかも。
「そして、佐賀の乱」
オタクくんが好きなクソデカ感情ってやつじゃん。皮肉すぎる青春の終わり! ミステリフロンティアはこうでなきゃね。操りは失敗したときにこそ輝くんだなぁ。

ハウダニット、フーダニットの興味で視線を引っ張ってホワイダニットに焦点が合わさって、ぜんぶ終わったと思ったところで事件全体の絵が一気にみえるという構図、きれいでいいですよね~。

1/24

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 4 廃棄未来』(ガガガ文庫)

ていうか上手く説明できないけどエルピスってなんかノベルゲーのシナリオっぽいよね。いや、単純にループするからとかじゃなくて、……それもあるけど……。なんというかこう、イベントの置き方とか、感情の操作の仕方とか、そういうのだ。マンガとかラノベとはどう違うんだといわれるとやっぱり説明は難しいのだが。
いやでも燈ちゃんの死ぬとことか廃村ふたり暮らしとかはさ……ぜったいそっち系の文法じゃん。でも花先生がバルトロメオのものだった棺で死ぬとこは少年漫画かも。
そもそもどうしてこんな捨環戦をやらないかんの――というのが世界丸ごとひとつを使い捨てにしたデータロギングという欠片でも人間味が残っていたら思いつかない戦略につながっていっておぞましい。

1/25

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 5 迷い子たちの一歩』(ガガガ文庫)

やっと箸休めの巻。ものすごい勢いで与太設定が出てくる。ユーゼフ vs カナエが熱すぎる。カラテ……。

1/29

sprite『蒼の彼方のフォーリズム』

フライングサーカスという競技を考え付いた時点で勝利が確定されてる。レース要素とドッグファイト要素が合わさるとこんな面白いんだね。でも部長以外に純粋なスピーダーとして勝利を狙うヒロインがいなくて*11、そりゃまぁスピーダーの基本戦略が逃げ切り、ドッグファイトの回避だから絵的に(文的に?)映えないというのはあるからしょうがないとはいえ、けっきょくみんなファイターになっちゃうんじゃんという……。
でも共通ルートでいちばん盛り上がったのは部長対乾戦だと思うんだよな。
がんばってはいるけれどもやっぱり文章だけではわかりづらい FC の試合の様子を、フィールド全体の俯瞰とコントレイルが映る引きの図と、ドッグファイトにフォーカスした寄りの図で表現しているのはとてもえらいしすごい。必要な素材の量を考えると恐ろしいね。
しかしはじめて数か月でこんなに伸びてトップ層と戦えるようになるもん? 歴史の浅いスポーツだとそんなもんなんかなとか思ったが、このへんはリアリティとか考えるあれではないだろう。女性の方がむしろ有利うんぬんとか説明してるあたりからして、筋トレとかそういうどうしても時間のかかる要素より体の動かし方のセンスが重要視されるスポーツっぽいし、頭の使い方とセコンドの指示も重要っぽいし……。まぁスプラトゥーンとかだったらはじめて数か月の天才中学生が XP 3300 行きましたとかいわれてもなんかあり得るかもって頷いちゃうしな。

梨佳
やめろー! グラシュは人を傷つける道具じゃねえ! 俺とバトルフライングサーカスで勝負だ!
ヤバいラフプレイやさんが出てきて、そもそもラフプレイの技術もさることながらほぼ催眠術としかいいようのない感情操作術が怖すぎる。そんなに人を思い通りにできるならもう飛ばなくても勝てるだろ。
いまいちラフプレイこだわり姉貴の気持ちが理解できず、梨佳じしんの抱える問題(まじめすぎ)もそんなに重大なものとも思えず、あんまり盛り上がらないまま終わってしまった。でも梨佳ちゃんがはじめて送ってきたメールは激萌えだった。しかしユニフォームをコスプレに使うのは……それがしいかがなものかと思うでござるよ。
梨佳ちゃんが他校の生徒であるという設定がなんか……骨抜きにされてしまったかんじがあるのがな。そもそも真藤さん(他校のめちゃ強いやつ)を物語に自然に出すための他校生設定だったとして、個別ルートに入ると梨佳ちゃんはこっちの学校の練習にふつうに参加するようになるってうーん、なんかな~。べつにこっそり他校生のコーチをみんなに隠れてやって、それがバレないようにすることのスリルが~みたいな展開が欲しかったとかそういうわけではないけれども……。

真白
わかりづらすぎるだろその縦読みはよ!
変な位置で改行することで行頭に注目させるのならともかく、変な文末の省略で行頭に注目させるのはロジックが成立してないだろ。でもなんかぎゃくに必死感伝わっていいね。
オールブルーのあたりはマジでいい。真っ青なトラウマの光景を真っ白な勘違いが真っ青に塗り替えるのズルすぎる。ノーベル文学賞です。
あと真白ちゃんっていわゆる敬語キャラのなかでも珍しい丁寧語だけじゃなくて尊敬語も使う系の敬語キャラなのでちょっとうれしかった。 後半は半分みさきルートみたいなもんだ。前半ではたぶんちょっとヘイトを買っていたみさきのヘイトコントロールとしても上手い。みさきがじつはうどん嫌いだったのに、真白が差し入れてくるうどんを頑張って好きになったというエピソードがほんとにズルい。オールブルーのくだりもそうだけど、真白の勘違いに合わせて周りが変わったり、真白の勘違いが周りを変えたりするのだ。後輩という属性の本質を見た気がする。
エアキックターンというまぁそりゃすごいけどみんな界王拳使ってるのにいまさらかめはめ波出してもねみたいな技で最終的にみさきに勝つのもアツい。ええ話やほんまに。
ところでぇ!!!(100000000 dB) どうして H シーンにメガネ差分がないんですかぁ!!??!?!?!??!
勉強してるときはメガネかけてるんだ~~へぇ~~~ふぅ~~~んからいっさいメガネ出てこなかったときのおれたちの気持ちが理解できるか? お前にはわかんねぇだろうな。二度とおれたちを弄ぶんじゃねえぞ。喝!

みさき
傑作。
ほとんどずっと劣等感と嫉妬心と悔しさしかないのになんでみんな対戦競技なんてやってんの?っていう友情努力勝利ではない側面のスポ魂もの王道テーマだ。
おなじ傷を抱えたもの同士がふたたび飛ぼうとする決意を抱くまでの流れがとにかくひたすら丁寧なのがとてもよい。七章・最終章の二章構成で七章まるまる FC やらないという思い切りがいいよね。
みさきはいわゆる強さ議論スレ的なものでいえばたぶん最上位の Tier には乗らなくて、そんなみさきが(当然最上位 Tier の)乾と明日香に泥臭く勝つのがいい。乾に対しては背面飛行を最後まで隠し、明日香に対しては相手のミスを突いて、ようするに搦手や運で勝ったわけだが、たぶんもう一回やったら彼女たちに勝てるかどうかは怪しいんだろう。でも、強くなりたい、楽しくやりたいとおなじくらい負けたくない、勝ちたいも勝負の本質だ。
みさきに一足先に飛ばれてしまった晶也はそんなみさきにすら嫉妬してしまうというくだりがあるのもすごい。ふつうの性格がいい人なら優勝したみさきをみて晶也もやる気を出しました終わりにしてしまうだろう。この暗い一ひねりを加えたあとで出会いを逆の構図でやり直すことで晶也の時間が動き出すという展開にしたの美しすぎる。

明日香
鬼コーチやりすぎて明日香のことぜんぜん知らんかった……って葵先生に気づかされるところはけっこうじぶんが叱られてるみたいな背筋の伸びがあったが、そこから最短でドスケベお見舞い展開に行くとはな。パジャマのボタンちゃんと上までかけなさい!
幼少期に出会ったうんぬんかんぬん展開はもうみさきでやったでしょというかんじでちょっと興ざめ。みさきのほうは冒頭からほのめかされてて納得感あるが、明日香の方はロボットがどうとかいわれてもなんだかなぁ。
多角形連撃はかなりバチカンの祓魔師たちの戦術みたいだと思った(アディピスコルが好きすぎてごめん)。
アンジェリックヘイロー! フェーズセカンド! バランサーオフ! とか言い出したあたりからはタハハというかんじ。あんたらだけドラゴンボールやっとるんよ。

総評
窓果ちゃんがかわいかった。も~それに尽きます。紫苑さんの活躍ももうちょっと見たかった。あとどのルートでも佐藤院さんがいいやつだったね。

1/30

sprite『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA 1』

2 回目のデートを成功させるために料理の勉強をしたり服を買いに行ったりしてしかるのちにデートするだけでこれだけ長いテキスト書けるんだからすごい(皮肉ではないが褒めてもない)。FD だしこんなもんなんかな。CG はどれも暴力的に良いので画集性能は満点。
FD なのに真白ばっかりにならなくて久名浜と高藤のゆかいなみなさんたちがずっと出番あってにぎやかなのはとてもよかった。やっぱりこのゲーム窓果ちゃんがいちばんかわいいぜ。

1/30

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 6 四百億の昼と夜』(ガガガ文庫)

エンブリオさん二回も花ちゃんにシバかれててワロタ。天敵か?
話が壮大になりすぎた SF あるあるの人類の記憶鑑賞パートが長すぎて中盤かなり眠かったがさいごのほうはやっぱりこれがエルピスだ~という絶望感で安心した。これもう実質儚月抄だろ。

1/31

オキシタケヒコ『筺底のエルピス 7 継続の繋ぎ手』(ガガガ文庫)

圭くんもう完全に人外でワロタ。イモータル連中よりよっぽどおかしくなっちゃったよ。朱雀てなに? 精神世界の謎ルールバトルで叶とカナエを絆召喚して並行世界のじぶんを倒すくだり、高度なイチャつきすぎるな。
霧島のおば……お姉ちゃんがやっとまともに活躍――敵のマリオネットになってだが――してくれて嬉しい。姥山が青鬼に憑かれて空蝉組にシバかれる前巻からのくだり、おもしろいけどどういう意味が?と思ってたらまさか洗脳を上書きするために青鬼デリバリーするとは思わんだろ。膀胱に不安のある千年枢機卿もいいところをみせてくれる。霧島とギスの会話でオタク無念の落涙――
どれだけ人外になっても度を越したシスコンであることは揺らがない圭くんがかっこよすぎる。

*1:といっても ExE と夏空と天神乱漫やってないけど。FANZA の遊び放題とかでそのうちやりたいですね。

*2:なんだかつっこみが入りそうなのでここでわたしが反規範的な行為のうちどのようなものを背徳的な行為とみなしているのかちょっと考えてみた。ようするに当該行為が規範に反しているという主張に真剣にコミットしていて、かつその行為が快楽に結びついている場合に当該行為は背徳的なものになる。真剣にコミットしている、というのは当該行為そのものを行為主体がやるべきでない、やりたくないと判断しているということである。どうせ車なんてめったに通らない見通しの良い一本道で左右を確認したうえで車なんて来ないと確信して赤信号を無視して横断歩道を渡るのは、通常反規範的な行為ではあるだろうが、そこでふつうの人が忌避しているのは交通規範を侵犯することの後ろめたさではなくて(、ましてや突然現れた車に轢かれるリスクでもなくて)、それを官憲等に見咎められることの不利益である。生徒との恋愛も似たようなものであって、世の教師の大半は生徒と恋愛をするのはいついかなる場合も優先的地位を濫用することによる非道徳的な行為であって教員倫理に反する……とはあまり考えておらず(考えていないこともないだろうが)、それがバレたときの不利益を思ってそれを控えているだけである。いっぽう背徳感に必要なのは行為そのものが忌避されるべきものであり、同時に希求されるべきものであるという真正な接近回避型の葛藤だ。クレプトマニアは盗みなんかしてはいけないと真剣に考えているが、盗みの快楽はそれを上書きするほど大きいので盗みたいと考えてしまう。近親性愛者は兄妹で愛し合うなんて許されないこと、気持ち悪いことなんだと思いながらもその気持ちを抑えることができない。一週間前に吸血鬼にされたばかりの新米吸血鬼はかつて同族であった人間を傷つけてはいけないと真剣に考えているが、生きた人間の首筋から直接血を吸いたいという本能にはあらがえない。かれらの欲望は背徳的だ。いっぽうデブはポテトを食べたいが同時にポテトを食べたくないのではなく、ポテトは食べたいが太りたくないだけなのであって、ポテトを食べ、しかるのちに運動をすればよいのだから、かれの欲望は背徳的ではない。ここまでの例示から明らかだろうが、規範は必ずしも道徳的規範に限らず、法規範、性規範、美的規範、健康に関する規範……なんでもよい。
ところでどうしてこうした意味での背徳的な行為が独特の質を持つのか(というか独特の質を持つという直観をもとにして背徳的な行為を単なる反規範的な行為から切り離しているわけだが)ということについてはかんたんに説明できない。してはならないはずなのにしてしまうほど欲求が大きい、という特徴は、単なる反規範的な行為においても当てはまるからだ。背徳的な行為において真剣にコミットしている重要な規範、人間性や社会性を構築する要素であるような規範を踏みつけにできるのは、それほどまでに欲求が大きいからというだけでなく、人間でいたいなら、社会的な存在でありたいなら、まともでありたいなら……という規範性の隠れた前提がじつは破棄できることに気づくからだ。葛藤が主たる要素であるはずの背徳的な創作物になぜかある種の爽快感や自由の感覚が伴うのはたぶんそのへんが理由だ。

*3:例に出すならイーガンとかでいいだろ!

*4:ぎゃくにいえばハルヒ以前――ジェローム・ビクスビイの「きょうは上天気」まで時代をさかのぼったともいえるのか?

*5:生理学的キンタマではなく精神的キンタマの話をしています。

*6:そもそもキャラそのものストーリーそのものが明確に腑分けできて、その足し算でフィクションが成立するとかいいたいわけではないが。

*7:「○○!~~○○!」と、発言の最初と最後に同じフレーズがくることが多い。口でクソたれる前と後に『サー』と言え!

*8:なのに後続作では BAD の枝もあることが当然視されているのが不思議なのだが。

*9:停滞フィールドからの発展ではあるものの。

*10:もちろん現代を舞台にして書かれたということではなく現代に書かれた、っていみね。

*11:部長はヒロインではない。