Akiapola'au

読んだ本のメモ ネタバレは自衛してください

2023/12

12/4

石濱裕美子『物語 チベットの歴史』(中公新書)

チベットのすべての衆生を救うまではみずからの安楽を願わない、もしこの約束を違えたら頭も体も砕け散っても構わないと阿弥陀如来に誓った観音菩薩が衆生を救いまくる。疲れたので瞑想して、そろそろみんな救ったやろ……と思って瞑想から目を覚まし、丘からチベットを見下ろすと、それどころか悟ってない衆生が増えていたのに絶望してもう涅槃に入っちゃおっかな……と心に浮かんだその瞬間、みずからの誓いによって頭と体が砕け散る。それをみた阿弥陀如来は砕け散った観音の頭を集めて十面にし、そこにみずからの頭を乗せて十一面に、そして、砕け散った観音の手を千手にしてより多くの衆生を救えるようにしてやったとのことである。十一面千手観音の起こりである。

これがチベットの千手観音に伝わる説話だそうだ。切ないね。救い疲れた観音にもっと救えといわんばかりに千本の手を与える阿弥陀如来、キュゥべえの才能がある(?)
しかし救われた衆生の数が多ければ多いほどよいのか、救われていない衆生が少なければ少ないほどよいのかはよくわからないな。しかし観音さまが消極的功利主義者なわけないか……。

12/5

ゆずソフト『天使☆騒々 RE-BOOT!』

プレイ時間はたぶん 30 時間くらい。そういえばステラの感想にゆずは初めてプレイするとか書いたけど『ぶらばん!』やったことありました。十年くらい前なのでもうなにも覚えてないけど……。
共通ルートはしょうじきどうでもいい転生がどうのみたいな話にルールがよくわからないマナの話があわさって読み飛ばす部分がやや多少かなりあった。やりたいシーンありきのマナうんぬんの話だから細かいところはどうでもいいのだが、李空「〇〇したら××ってことか?」かぐ耶 or 乃愛「いや、その可能性は低いと考えられる」とかそういう……お、おう……お前がそういうんならそうなんだろうな……みたいな説明が続くとね。シチュエーション先行でもなんでもいいからストーリーの設定部分の関節にもうちょっと油が差してあるとよかった。でもまぁ共通ルートそんなに長くないから、いいか……。
以下攻略順です。ネタバレ注意!

かぐ耶
愛を知らないエイリアンが地球の創作物から理想的恋愛の特徴を学習して作った二郎系ロマンティックラブイデオロギーというかんじでさっそく胃もたれ……。
やってることも特訓と刺客の二本立てでほとんど共通ルートの焼き直しで、さいごのクーデタもまぁ……通り一遍。これではドスケベ通い妻ではありませんか~(泣)

オリエ
最高。なによりファンタジー設定がほとんど関わってこない。
デートはともかく海にまで従者の服装で来るって何? 私服立ち絵もう一個くらい用意してよ~と思ってたらケープの伏線回収と美しすぎる CG で昇天してしまった。文章もとにかくいい。

その揺れた声色に、思わず息を飲んだ。
この世から空気がなくなったようで―― 海からあがったときよりも、今の方が息苦しい。

ここ初読で鳥肌立ちました。ノーベル文学賞のほう授与させていただきます……。
主だとかそういういままでの世界を象徴するケープで顔を隠していたのが告白されてそれが取り払われるのがとにかく美しすぎる。

「では、完全に潮の香りが消えたら止めましょう」

ここほんとうに最高すぎる。ノーベル文学賞のほう授与させていただきます……。
メモ帳というモチーフが最初から最後まで一貫して重要に用いられてるのもお上手。わたしはほんとうにこういうシナリオが好きだ。傑作。
あとエッチシーンがたいそうエッチでした。これでけっこう攻めっ気あるのすべてを完全理解しているものの手つきだろ。

風実花
オフの日は服装そんなかんじなんだねってくだりが共通と個別で重複してたりそういう整合性というかなんというかが怪しいというのはともかく……。サブヒロインらしくさっぱり終わった。

来海
属性詰め込みすぎの感もあるがその根っこはぜんぶ好奇心旺盛というところから来ているのでじつは統一感がある。
頭よくて要領よくて人当たりがいいんだけどちょっと思考の段階飛ばしすぎてじぶんのなかでは納得してるんだけど周りにはちょっと伝わらない結論勝手に出して軽く自己嫌悪してたりする女が好きすぎるため、お試しとか言い出すシーンでは頭おかしくなるかと思った。すみません、個人的な性癖が出てしまいました。
ヴェガの話はかなりチー付与のミラベルだと思った。魔王の死にざまは……ゼロ・レクイエムだね……。
アフターでヴェガちゃん帰ってこれてよかったね、白石……

天音
じ、実妹か……なるほど……いけるかな……

天音たそ萌え~~~~
何年も前から好きだったってのがいい。
その何年も隠してた好意がどうバレるかっていうのをオナバレでギャグ風味に処理してきたのがちょっと意外で、でも

ワタシがどれだけバブー知恵袋で似たような質問を検索してきたか、履歴見せるぞっ

こうなるんですよね。ここが特にいい。ギャグのノリだけどめっちゃしっとりしてるのだ。
仲間に打ち明けたときにみんながぜんぶ受け入れるでもなく否定するでもないのがとてもよかった。来海さんの「二人とも友達なんだが?」は泣いちゃうだろ。
ラストの CG でも泣いてしまいました。
しかし天音はほかのルートでは……と考えるとかわいそう。来海ルートなんかエッチ中の声聞かされちゃってますからね……。

乃愛
んにゃっぴ……。
僕っ子ものということで天使に性別はないとかそういうくだりをやるのかとおもったらぜんぜん女性器あって草。
グランドルートらしくシナリオのつじつまがあっていくのとかはおもしろかったけど、あんまり乃愛をヒロインとしてみられなかった。すまない……拙僧には……ロリの経験値が……。
あと天界(というか神)サイドがなにを考えているどういう組織なのかぜんぜんわからなかった。

総評
海以外のデート場所(背景)を各キャラにひとつづつくらい用意してほしかった(ステラではやってたじゃん)のがざんねん。
ゆずにエッチシーンは期待すなみたいなのが風潮だったがそっち方面を頑張っているのはよかった。キャラの作り方魅せ方もとてもていねいでよかった。
いっぽうファンタジー設定がシナリオを進めるためのものとしては使われていても感情的な面とかテーマ的な面を書くのにはあんまり嚙み合ってなかった印象。

12/11

アンソニー・ドーア『すべての見えない光』(ハヤカワ epi 文庫)

読んでるあいだずっとあーいま俺は名作を読まされてんだなみたいなシラケがずっとあった。
第二次世界大戦、ボーイミーツガール、ナチス、ギムナジウム、心優しき精神障害者、宝石探し、あーもう勘弁してくれ、ドーアさんこれ売れる――すくなくともウケる――と思って書いてるじゃん、てか七百ページも三人称単数現在形読まされるのバカバカしすぎる。構成の緻密さとかもよくわからない。爆撃の日に過去を混ぜ込みわかめしてるだけでしょ? わたしはメモリー・ウォールもそんなに好きじゃなかった。
「現在も世界のどこかで戦争が起こっている。このようなことが二度とあってはならないと強く感じた」「悲惨さのなかの人間性について考えさせられた」「戦争を美しく書くことに伴うアイロニーに思いをはせた」系の読んでなくても書ける安心安全レビューを書いてくれるバカを味方につけて防御力を高めつつ、陳腐なモチーフでちゃちゃっと読者の興味を引いて、でも『卵をめぐる祖父の戦争』みたいにエンタメに徹するのは恥ずかしいからルーインドオーガズムみたいな落とし方をする。長編小説としてあんまり評価はできないかんじだ。
よかったのはマリー=ロール視点の文章だが、これだって「シェル・コレクター」でもうやった。美しい文章で世界を変な切り口で――イモガイの毒が小説になるなんて!――切断する短篇のドーア先生は好きなんだが、これはなんだかなぁというかんじ。好きだったバンドがサウンドはそのままカノンコードごりごりのバラード書いてきたときみたいな……。

12/12

ゆずソフト『サノバウィッチ』

プレイ時間は三十時間くらい? タイトル画面曲、いいね*1……。
お悩み相談というもっとも便利な展開を使い倒すのに最適としかいいようのない魔女が心の欠片を集めるという設定、ファンタジー設定を入れるならこういうのでいいんだよな。って奉仕部やないか~い。ステラの蝶がうんぬんよりさらにシンプルで洗練されている。
しかし物語を盛り上げるためにノンケに恋をしてけっきょくノンケ同士の恋愛を見せつけられる同性愛者トロープがでてきて、ムム……となったが、その後憧子さんルートとかをみるとそれをできる限りただの失恋として扱おうという意図がみえたのでうーむさすがちゃんとしとるねと思った。
しかしまあお悩み相談もの、廃部もの、バンドものって、ラノベでこれやったらさすがに怒られそうなくらいクリシェの塊だな。
以下攻略順です。ネタバレ注意!

めぐる
これ……かぐ耶ルートとおなじライターだな!? 共通では素直と生意気のちょうどいい塩梅にいた後輩キャラが、個別入った瞬間人格改造されてしまい、おれは……。
ちーちゃんのエピソードはすばらしい。奇跡を起こした代償にみんなから忘れ去られるみたいな話は世の中によくあるが、奇跡を起こした代償にみんなのことを忘れてしまうってのは予想外だった。目的さえ忘れ、なんのために欠片を集めているのかもわからないままそれでも契約を成し遂げてめぐるを救ったちーちゃんは本作でいちばん高潔な人物だ。
ということでてっきり付き合い始めてからは二人でちーちゃんを探し出して再会する――記憶が戻るかどうかはさておき――みたいな展開になるのかと思いきやぜんぜんそんなことはなくせっかく助けてもらった命なんですからといわんばかりにハードにイチャつきはじめるので面食らった。まぁしかしこういうのこそがいいというニーズもあろう。
家ではメガネ +500,000,000 点。

和奏
魔女とか欠片とかそういうのとはまったく関係なく子どものころから主人公のことを見てくれてる人はいて、魔法とかそういう話にもしいっさい関わることがなかったとしてもかれの心の穴は埋まりうるのだというのを示したという意味では主人公にとって救いのある展開で、サブヒロインながら全体を補完するいいかんじのストーリーになっている。いっちょまえにバンドのシーンで MV 付いてるのもいい。MV あるし ED はなしかなとおもったら ED もあるのがすごい。メインヒロインよりお金かかってないか?
主人公の思いやりのおかげで、他のルートでは風邪のせいで歌えなかった彼女が歌を歌えるというのも感動的だ。他ルートをクリアしてからでないと入れないルートであることを利用していてクレバーなかんじ。


アカギのキャラ造形がとにかく立体的でよい。自分勝手で物語を引っかき回していくけどその背景にある動機が切なくてきらいになれないやつね。しかしアカギはワタリガラスのアルプだということだが、このゲームの舞台は北海道なのか? 背景はどうみても京都だが……。
シリアスとコミカルのバランスもよくて、主人公の愚かな自己犠牲で息子を記憶から奪われた太一パパのくだりは胸を締め付けられる。いっぽうクマの人形にマジギレする紬の SD はンヘヘ……みたいな笑いが出る。
子犬もけっきょく悪気があったわけではないらしいし、アカギの友だちはまだ生きてたし、アカギがまたひとの形に戻れるようにこれからもがんばっていくぞみたいなすっきりしたオチで読後感もいい。満足度の高いルートだった。
ところで寧々さんルートで魔女の契約は一度きりとかいってたのとか、相馬さんが変身すると服脱げるのにアカギは服着たまま変身できてるのとか、やや一貫性が取れていなかったのはちょっともったいない。

憧子
共通から個別に入ってかなり印象変わった人。共通だとなに考えてるのかちょっと掴めなくて、羞恥心がちょっと壊れてて下ネタで主人公をからかってくる人、みたいなまぁそういう性癖があるひともいるよなっていうかんじのキャラだったのがこう用いられるとは。そういう類型だと思っていた紋切型がじつは設定やテーマに深くかかわっていたみたいなやつがオタクは……大好き!
相馬さんが感情と心は違うみたいな話をしているのは feeling と emotion あるいは sentiment の違いに対応している。保科くんが能力で知覚しているのはあくまで feeling であって、好きな相手にも悪感情 feeling を抱くことがあるように、feeling がわかったところで、相手の emotion まで筒抜けになるわけではない。それはちょっとしたズルかもしれないが、ある種の関係や歴史に基づいて構成され、理由を権利上要請するような愛は、その程度の裏技で正体を見抜けるようなものではないのだ。だから、憧子先輩に能力が通用しないからといってそれは及び腰になる言い訳にはならないのだ、というわけ*2
記憶を失うところは伏線の貼り方込みで素晴らしい展開。前来たときも頼んだパフェを二回頼んでしまうのとかも描写としては引っかかるがどういう意味なんだろうと考えていたらこういうふうに回収されるわけだ。記憶が失われやすくなっているのを自覚しながら生きている人間が「あれ、それ前も注文しなかった?」と訊かれたときの恐怖を考えると、ただのデートシーンだと思っていたくだりにあとから重い裏側が見えてきてなんとも切実だ。
解決自体は愛の力でよっこらせみたいなかんじでシンプルでよかった。なにより人間らしい感情を取り戻した(アルプらしさの残滓による制約を免れた)憧子先輩が恥じらいをみせるところは破壊力がすごい。いいルートだ。でもようがすってなんだよ。

寧々
人格の同一性と単一性に対する非常に重大な挑戦だ。RESTART 世界における保科くんは元の世界の保科くんと同一の保科くんなのか?
心の欠片を受け入れた RESTART 保科くん(以下 R 保科くん*3とする)にどのような変化が起こったのかは判然としない。記憶は元の記憶に追記されたのか、上書きされたのか?

▼以下長いので省略。ここをクリックで開きます。 寧々の願いによって作られた世界の保科くん(以下 A 保科くん*4としよう)は、意識は連続したまま元の世界の保科くん(以下 O 保科くん*5としよう)の記憶や感情を引き継いで R 保科くんとなった。さてこの統合の過程は作中の描写からすると漸進的に起こったらしいが、統合後の R 保科くんはどのような自己意識を持っているのだろうか? A 保科くんの意識が連続したまま、O 保科くんの記憶や知識、感情を獲得したのか? それとも、A 保科くんとしての自意識はやがて薄れ、O 保科くんの意識がそれを乗っ取った(A 保科くんの記憶はたんなる記憶じぶんのことではない記憶として生き残っているかもしれないが)のか?
ようするに、R 保科くんは、「先月までなにやってた?」と単純に訊かれたときに、A 保科くんとして「俺は先月までひとの頼みごとをこなす退屈な日常を送っていた」と答えるのか、O 保科くんとして「俺は先月までひとのお悩み相談を解決し、寧々と愛を育んでいた」と答えるのか? ということである*6
R 保科くんが一人称過去形で言及するのが O 保科くんのエピソードである以上、後者を取る方が穏当そうである。すくなくとも、R 保科くん自意識は A 保科くんと O 保科くんのどちらとより強い連続性を持つかといわれれば O 保科くんだ。
なら O 保科くんと強い意識的な連続性を持つ R 保科くんは O 保科くんと同一の人格であるとみなしてよかろう――ロックならそういうであろう。
しかしそう単純に割り切れないなにかがある。じっさい RESTART 以降の展開にもやもやを抱えているオタクは多いようだ。
いわく、A 保科くんは寧々といっしょにお悩み相談に従事し、心の欠片を集め、ハロウィンパーティを成功させ、二郎系ラーメンを食べに行き、おなかをさすったわけでもないのに、空中から生えてきた記憶と感情を権原として不当に寧々と恋愛関係を持っている、というわけで。
この意見の元にあるのは人格の同一性を時空的な連続性に求める立場だろう。しかし、人格や意識のような非物質的な属性を時空的な連続性に求めるのはあんまり筋が良くないようである。この立場を取るとそもそも願いを達成したあと少女時代に戻った A 寧々も O 寧々とは別人格であるとみなさなくてはならなくなる。
おそらく、かれらが拒否しているのは A 保科くんが O 保科くんの心の欠片を受け入れて R 保科くんになることができるという可能性そのものではない。問題は寧々の願いが達成されたあとの O 保科くんの存在(O' 保科くんとしよう)の存続である。O' 保科くんは記憶を奪われたうえに、作り直された世界(歴史)でみずからの記憶を簒奪した A (R) 保科くんに寧々を寝取られてしまっている!
話を整理すると――O 保科くんの記憶と(、おそらく)意識を引き継ぐ R 保科くんがいる。O 保科くんの肉体と(、おそらく)意識を引き継ぐ O' 保科くんがいる。さあ、どちらが O 保科くんと同一の存在者なのか?
もし寧々の魔法が成就することで世界が巻き戻るのであれば、こんな厄介なことにはならなかった。魔法が成就した後も O' 保科くんの世界が続いていたように、オリジナルの世界は(寧々の記憶を失ったうえで)持続している。そのうえで別の世界が創造されている。O' 保科くんと R 保科くんが存在して、どちらも O 保科くんと同一の人格であるというのはおかしい、というわけだ。同一の人格は単一でなければならない*7
ところで話がおかしくなっているのは人格の同一性などという取り扱いが難しい概念を扱っているせいだ。パーフィットならそこには O 保科くんと意識が連続する O' 保科くんと R 保科くんが別の世界にそれぞれ存在するだけであって、どちらが O 保科くんと同一の人格であるのかといったような問題はそもそも存在しない、O 保科くんに関するさらなる事実などはないのである、と言い切ってしまうだろう。
もちろん人格の還元主義は大いにけっこうである。しかし、この物語は数え上げることのできない人格観に基づいた改訂的な倫理学の議論じゃなくて、愛についてのフィクションなのだ。ラブロマンスはたいてい人格の同一性について本質主義を取っている。記憶を失ってもあなたが好き、生まれ変わってもあなたが好き、もし仮におなじ顔、おなじ性格の別人がいたとしても、それでもあなたが好き、こういったラブロマンスのクリシェは還元主義を暗黙に否定する。ある単一の人格がまさにそれによってある人格であるという本質あるいは無記名な個体化の原理を指さすラブロマンスの理想そのものを批判したってしょうがないので、それに沿うかたちでなんとかプロットを弄れなかったものかな、とはちょっと思ってしまった。でもタイムリープとかループものってどうしたって「わたしのものではないエピソードによって成立してしまっている恋愛」とか「上手くいかなかったルートの登場人物かわいそうすぎ問題」からは逃れられないよね。
いっそのこと歴史改変後の寧々さんも保科くんも O 世界の記憶や意識を引き継いでいないことにして、A 世界の寧々さんはいちから A 世界の保科くんと恋愛をして、でもそこには O 世界の保科くんの心の欠片の不思議な導きのおかげがあって、なんやかやで関係が成就したあと、ラブパワーで奇跡が起こって O 世界の寧々さんと保科くんが記憶を取り戻してまたイチャラブするみたいなさ……。こんなご都合主義のプロットは SF としてはどうかとおもうがラブロマンスならそれでもいいようなきがしなくもない。とにかくわれわれは O 世界の O 保科くんが、ロッカーに貼られたプリクラを眺めている O 保科くんがどうにか救われてほしいと考えてしまうのだ。

とかそういう難しい話はともかく、いいルートだ。寧々さんはかわいいし、笑いどころもたくさんあるし、そもそも相馬さんはなんでこうなることをもっと早く教えてくれなかったんだよとか上述の人格の同一性、単一性の問題を除けばシリアス展開もしっかりしている。いろいろあったけどもうすでに幸せは手のなかにあったと気づくという物語の締め方も、元の世界では個別ルートの始まりだったハロウィンパーティが RESTART 世界の話の終わりになるという構成上の上手さも巧みだし感動的だ。

総評
おもしろかった。技術的にうまく作られたシナリオというより、こういうのが書きたかったんだろうなというのが先に伝わってくるシナリオで、なんというかその熱量が結果的によくできたシナリオにつながっているというか。

12/12

繁田信一『陰陽師―安倍晴明と蘆屋道満』(中公新書)

あんまり晴明と道満の話は……ない!
ほんらい陰陽師というのは陰陽寮所属の品官のひとつであったが、だんだん陰陽寮に所属する職員あるいは元職員を指す職業名として意味が拡大されていったという。これら官人陰陽師だけでは京の陰陽師ニーズを満たすことはとうていできないから私度僧の法師陰陽師がもっといっぱいいたのであろう。
というような説明のあと、ひたすら平安中期の日記から陰陽師のお仕事紹介が続く。動物が屋敷に入ってきたら吉凶を占い、物忌や片違を指示し、イベントの日取りを考え、病を癒し、政敵を呪う(これは法師陰陽師の仕事)。どんな仕事をしていたかはよくわかるものの、どんなふうにやっていたかは通り一遍で(それを知りたかったら占事略决読めという話なのかもしれん)、どういう意義があったかについてはあんまりよくわからない。そりゃ平安時代の人間の心性がどんなふうであったかはとても難しい問題で新書でささっとやれるようなものではないかもしれないが。
後世の評判に反して 10 世紀ごろの史実では賀茂氏のほうが安倍氏よりも有力であったのだが、賀茂のほうが有力だったからこそ安倍氏が晴明伝説を作り上げて優位を主張したのだみたいなのはなるほど~というかんじ。

12/13

宮崎市定『科挙 中国の試験地獄』(中公新書)

前にも読んだことあったのに途中で気づいた。どうりで知ってる話ばかり出てくるわけだ。
科挙のいちばん不思議なところはその試験科目が 1300 年間ずっと四書五経を中心とした人文系の素養に限られていたということだ。公平性を確保するため、癒着や閥の形成、カンニングを防ぐため、制度面についてはいろいろと改正してきたのに、試験科目だけはずっと変わらなかった(出題形式はいろいろ変わったが)。いや四書五経を使って政策課題についての見識を問うていたりしたんだよというのもそれはそうなのだが、直接法学や経済学、語学の知識を問う方向にはいかなかったのはなぜだろう? とやっぱり思ってしまう。
……というようなことを考えるのは専門が分化しきった時代に生まれたわれわれの浅知恵であって、人類の歴史では専門知より教養知のほうが重要視されていた時期の方がずっと長い。それに、科挙はべつに有能な官吏を採用することだけに最適化された試験というわけでもあるまい。天子から恩恵として下される官吏のポストを、勉強さえすればだれでも手にすることができるという理想が大事なのであって、そこで儒教的教養が強固に共有されることには文化的な同一性を高めたりする作用があっただろう。それをどう評価するかはともかく。
とはいってもこの科挙みたいな強烈な淘汰圧が実学に働いていたら中国で産業革命が起きたかもしれないのにネ……みたいなことはたらればを考えちゃうよね。
あとなんで日本人って科挙は採用しなかったんだろう。まぁ課試とかはあったか……。

12/18

斎藤英喜『陰陽師たちの日本史』(角川新書)

平安時代よりあとの陰陽師たちについての章が半分を占めてて面白い。技術者として生まれ、官僚として成長し、宗教者として発展し、その間つねに天文学者でもあった謎の存在、変すぎる。べつに陰陽師たちは変なことをやっている自覚なんてなくて、ただその時代ごとにじぶんたちの陰陽道をやっていただけなのだが……。
そして晴明のセルフプロデュース力(ぢから)がすごい。

12/18

ゆずソフト『千恋*万花』

和風か~和風ってなんかとくだん興味ないんだよなとか思ってたけどプレイしてみれば時代劇っぽかったりするわけでもなく、画面が和風~なかんじというだけで、かえって目先が変わってよかった(?)
ていうか主題歌がよすぎる。名曲。毎日聴いてます。

共通
田舎の旧家にかけられた呪いを解く話。犬憑きとかいうから四国かどっかの話かと思ったが、背景はどうみても京都と神戸ですよね……。
呪いの余波で現れる化け物を退治しつつ欠片を集めてうんたらかんたら。共通時点である程度片が付くのが気楽でいいね。
にしても、呪いで女しか生まれなくなる家系、絡新婦だ……厭魅の如き憑くものだ……。
レナがエロ本を見つけるくだりがほんとうにおもしろく、CV の沢澤さんの演技が光ります。

以下攻略順です。ネタバレ注意!

芳乃
お弁当作ってきてくれて好きになってお見合いの話が持ち込まれて危機感をもって告白! シンプルですな。
母から重い役割を引き継いだことに不満はなくてお務めにも真剣だったけどまじめにやればまじめにやるほど母は罪悪感で顔を曇らせ、という過去から思いを素直に受け取ってもらえないことにトラウマを抱えているってのはちょっと複雑でいい設定。
じつはまだ解けていなかった呪いを解除して母の記憶とも和解を済ませたあとは怒涛のエッチシーンが襲い掛かる。後半エッチしとるだけやんけ。うーむ。
シナリオの山の作り方的には練り切れてない(というか全年齢版を見据えたシナリオ作り?)感はあったけど素直に芳乃ちゃんがかわいかったのでオッケーです。

小春
すごい、呪いとかぜんぜん関係ない!
三角関係ものとはこのブランドにしては思い切ったなというかんじですが、まぁ登場人物全員善人だから……。恨みっこなし正々堂々勝負。
剣道はあれだけ毎日特訓しなければいけなかったのに煎餅は一発で上手く焼き上げる主人公、煎餅の才能がありすぎる。
なんかほかのひとと絵柄違うなとおもったらむりこぶ先生ではないらしい。なるほど。

芦花
涼音さんルートってここでほとんど予告されてたんだな……。
正臣さんにはじめてもらった花がガーベラで、どうにかして長持ちさせたいと思って母親に相談するものの、「ガーベラは首が曲がりやすいから……」っていわれるところはちょっと文学が上手いな……と思った。

ムラサメ
ムラサメちゃんちょっとかわいすぎる。
たしかに御神刀引っこ抜きイベントがなくなったら観光客が減るというのは道理であって……。ほかのルートでは逆に観光客減ってないのか?
御神刀を岩にもう一回刺すためにはムラサメちゃんが人に戻る覚悟をしなければならないのだが、ムラサメちゃんが人に戻りたくない理由――逆サバイバーズギルト?――みたいなのはファンタジー設定ならではよいと思った。不死者が月だけを友達にしてるの感動的すぎる。
にしてもムラサメちゃんの前世が肺炎病みだったと聞くとちょっとかすれたかんじのムラサメちゃんの CV がちょっと切なく聞こえるね。そんなことを考えてキャスティングしたわけではないと思うが……。
岩に刀を返すために無限の鍛錬を要求され、主人公がかっこいいところを見せて終わるのでよかった。こういうのでいいんだよな、こういうので……。

茉子
あは忍者かわいすぎる……。犬になったり風呂上りに遭遇したり、ラッキースケベ展開の多さは To LOVE る級。でも落ちてる雛鳥はいくらかわいそうでも触ると人間の匂いがついて育児放棄されちゃうから触らない方がいいですよ。
やっぱり主を攻略してから従者キャラを攻略すべき、古事記にもそう書いてある。じぶんはヒロインじゃない、人を好きになるなんてできないと思ってた茉子ちゃんを強引にオトすましゃおみさん、このルートでだけやたら肉食系である。
ラブラブっぷりを見せつけて人間の憎さに染まり切った犬を癒す逆アニマルセラピー展開はどっちが主人公なんだかわかったもんじゃないかんじもするが、伝奇部分の出来とかはともかくとにかく茉子ちゃんがずっとかわいいからなんでもいいやというきぶんに……。

レナ
いわゆるグランドルートというやつですな。呪いの全貌が明らかになって他ルートの疑問とかがぜんぶ解決される。ムラサメちゃん、叢雲から生まれたから村雨なんだね……。
しかし……大変申し訳ないことに……あんまり……胸がデカすぎると……
なぜかレナさんにはあんまり萌え萌えになることができなかった。拙僧の不徳の致すところであり、今後の課題とさせていただきたい。

総評
呪いを中心にしたシナリオがレナルートで終息するように解かれていく謎解き要素、それぞれのキャラが抱えてる悩み、主人公の見せ場の多さ、どれをとっても高得点でさいごまでずっと楽しくプレイできた。なんか UI とかも含めたこのゲームの雰囲気そのものが好きだ。一年後くらいにまたプレイしたいと思った。

12/19

落合淳思『殷 ―中国史最古の王朝』(中公新書)

中国人は殷代のことについても史書を鵜呑みにするからいかんみたいなことを何回も書いてあるのだがほんとに中国の中国史研究者ってみんなそんなあほなのか?
それはそうとして、殷のことぜんぜん知らなかったのでお勉強モード。著者がじぶんでも卜占をやってみて薄さ 4mm くらいがいちばんヒビが入りやすいのでその厚さに削ったんだろうとかあらかじめ傷をつけておくと望む形にひび割れさせることができるのでこれで占いの結果を操ったのだろうとか書いてておもろい。卜占は当たるまで占うか、当たるように占うか、やりたいことに合わせて結果を弄るか、まぁそんな感じで行われていたようである。陰陽師とかもたぶん貴族の休みたい日が先にあって、それに合わせて物忌すべき日を占ってあげていたりしたんだろう。
しかし卜占の結果(亀甲そのもの)をじっさいにその目でみるひとたちなんて宮廷内のごくごく一部なのだから、カリスマを維持したいだけならめんどうな手品をやらないでただただ大本営発表を繰り返せばよいだけなのではとおもったが、まじないって演出が大事だしな。
奴隷が階層をなすほど存在していなかった(生産の主要な部分を奴隷が担う社会ではなかった)から戦争捕虜の使い道が家内奴隷にするほかにあんまりなくて、余った捕虜は祭祀で生贄にするのに使ってたらしい。有効活用だ。

12/22

森岡正博、蔵田伸雄 編『人生の意味の哲学入門』(春秋社)

人生の意味 Meaning in Life への分析的アプローチの入門書。わたしは伊集院先生の本*8が好きなのだが、そこでよく名前がでてくるメッツとかの話をするんだろうな。

久木田先生の章がいちばんおもしろかった。これこれの条件を満たすときかつその時に限り人生には意味があるというような真理条件的なアプローチが人生の意味について有用であるかは疑わしく、むしろ「かれの人生には意味がある」「わたしの人生には意味がない」という語が発されるときの文脈や状況を加味した語用論的な分析をした方がよい。それな!

12/25

ゆずソフト『RIDDLE JOKER』

共通
SF 要素やサスペンス要素があるわけか~と思いながらやってみて、潜入して偽札騒動を解決するあたりまではかなり面白かった。しかし……。なんか反アストラル勢力が云々とか言い出したあたりから設定の重さにストーリーが首を折られていくかんじ。
羽月
この……なに? このルートは……ちょっとついていけなかった。
一人で時代劇の殺陣ごっこしてる女はふつう好きになれないし、昔ヤンキーから助けてあげたことがあったみたいな過去もいまどきどうなんだか……というかんじ。
しかも好きになったあとなぜか品定めしてくる! 何様!? う、上様!?!??!?
実力が伴わないのに正義感だけ強い、みたいなのはあとで成長した姿を見せてくれるのかな。しかしこんなわかりやすい話を進めるためだけに都合よく出てくる不良を出すなよ。
他ルートでも多かれ少なかれあるスパイだから付き合えない展開がものすごいご都合主義で解決する。こんなのありっすか!?
付き合い始めた二条院さん、フェミニストじゃなくても血管キレそうなくらい家父長制ベタベタ名誉男性だけどこれ現代に出しても大丈夫そうですか? こういう人やこういう人が好きな人については否定しませんが、主人公にも若干引かれてるし……。
スパイ活動が羽月にバレてしまうあたりは緊迫感があってよかった、が、そのあとなぜかヒロインほったらかしで男と追っかけっこを開始し、なんか超能力で暴力的にわからせて改心させるまさに時代劇展開に。
そして結局羽月さんの人間性はまったく成長していないのであった……完。
シナリオがぜんたいに行き当たりばったり過ぎる上に、じゃあ濃厚なイチャラブ描写が楽しいかといわれると、前述のヤバい家父長制的発想や、真面目な寮長のはずなのに恣意的に規則を破りまくってセックスしまくってたり、そういうのが邪魔してやっぱり素直に楽しめない。
共通ルートの羽月さんはおもしろむっつりスケベさんというかんじで好感があっただけに、悲しい……。

千咲
痴漢事件を捜査するために痴漢の気持ちになりきる必要があり、ヒロイン相手に痴漢のまねごとをしたところドキドキしてしまい自分の気持ちを自覚する←エロゲじゃないとできないキモいフラグの立て方でいいね。
いえない隠し事があるけどいえない隠し事があるということだけは伝えて付き合っていくというのはスパイものの解決の一つではあろう。破綻なく軽くまとめた安全なサブヒロインルートというかんじ。

茉優
情報を得るためにヒロインに付け込むうちに二人とも本気になってきちゃって、でも任務でやってるっていう後ろめたさもあって……←そうそうこういうのがみたかったんだよ。
しかしスパイバレしたけどなんやかやあって協力関係を築いたあと、あんまりシナリオ的な見どころがない。射精管理パワーを能力暴走を抑える技術に転用するのが起承転結の転部分てどういうことやねん。
茉優センパイ、せっかく眼鏡キャラなんだからもっと眼鏡の CG とか差分が多いと嬉しかったです……。

七海
なんだこの ASMR 声は!?
七海だけなぜか ASMR が発売されてるってマジ!?
買いました!!!!

義妹というわりに恋人になるまではわりと早くて、そのかわり恋人になってからエッチするまでが長い。孤児として拾われてきてじぶんを殺してきた七海をみてきた暁くんはなかなか手を出せないわけですが、七海はじぶんのことくらいじぶんで決められる、そういうふうにしてくれたのはお父さんとお兄ちゃんなのに!というわけでぷりぷり怒って、餃子を作りまくる。
家の中で喧嘩をすると餃子を作りまくって仲直りするというのがなんか変だけどありそうな話で、いいなあというかんじ。
なるほどね、義妹ものは実妹もの(天音)と違って、タブーうんぬんよりもどうやって所与ではなかった家族という関係になっていったかという歴史が現在に響いてくるというところがシナリオの核になるんですね……。勉強になりますな。
まぁそのあとの政府がどうのみんなで力を合わせてどうのみたいなのはわりとどうでもいいかんじがしてしまった。
それはそうとこの妹、体つきがエッチすぎるだろ。 七海が水着を試着しているシーンの CG

あやせ
能力の暴走、能力者の失踪事件といった他ルートでもちょっとづつ顔を出していた事件がいっぺんに解決するまぁいちおうグランド?ルートということか。
じつはあやせは能力者ではなかった――一時的に能力者になる薬を使っていた――とか、そういうツイストがいくらかあってよかったものの、どうにもラスボスが小物感すごすぎて……。
あやせはかわいかった。沢澤さんの演技が光りますね。
あとさいごのおっぱいしまい CG がえっちだった。

総評
羽月ルートを除けばどのキャラもちゃんとかわいくてキャラ萌え的には大満足なんだけど、やっぱり身分を隠した潜入ものかつ能力ものということで期待するような要素がぜんぜん活かされてなくて、なんかシナリオが……つまらんなと思ってしまいがちだった。というのも、これはあとでわかることなのだが、潜入ものはすでにのーぶる☆わーくすでやっており、能力ものは DRACU-RIOT! でやっているせいで、たぶんじっさいに引き出しがなくなっていたのだろう。
いや、それを差し引いてもアホで無能すぎる主人公とかどのルートでも小物すぎる敵役とか、減点要素は数多いか……。
キャラの悩みとかトラウマみたいなぶぶんも面白くないのに幅をとる SF 設定のせいでぜんぜん作りこまれることがなく、活劇的にも人間ドラマ的にもびみょうになってしまった。

12/25

大津透『天皇の歴史 1 神話から歴史へ』(講談社学術文庫)

精力的にエロゲーをプレイしながら合間に読んでいたためあんまり記憶がない。大変申し訳ありません。
天皇の実在性はどこまでさかのぼれるかとか倭の五王はどのように比定されてどういう系図なのかとか天皇号はいつはじまったのかとか伊勢祭祀はいつどういう都合ではじまったのかとか古代史でよくあるトピックはほぼ網羅されているので、どれか気になったとこから勉強するのがいいんでしょうな。
という点で行くと東アジア史のなかでのヤマト王権みたいな話はちゃんと勉強したら面白そうですなぁ。

12/29

ゆずソフト『のーぶる☆わーくす』

さすがにちょっと絵柄がひと昔!

麻夜
ダメすぎる!
バレバレな割に引っ張った実家が極道設定は実家が極道だからといって差別するわけないだろ HAHAHA みたいなのであっさり解決してしまうし、付き合い始めてから極道の実家から脅されるのもけっきょく本気度のテストだったよ~んオチで興ざめ。
着物はかわいかった。

ひなた
うにゅうにゅいうのはやめてくれ!
これもヒロインの実家からの干渉は狂言だったオチ!? 勘弁してくださいよ!


このサブヒロインいる?
先生もバイトいっぱいしてたり苦労してたんだよネタでもうちょっと話広げてもよかったでしょ。
酔って生徒を犯すヤバい先生が一人生まれてしまっただけだった。

静流
えー! 最高のシナリオだ。とつぜん本気出すなよ。
庶民が身分を隠して上流階級の学校に通っちゃうラブコメでやりそうな展開(マナー講座を受けたり逆に庶民の楽しみを教えたり)をしつつ、丁寧に仲がよくなっていく過程を描く→いずれ本物の朱里に居場所を明け渡さなきゃいけない、その入れ替わりに気づかせないためにもより一層偽装に真剣にならなければいけないというジレンマ→愛するが故のネトラセデートで静流が愛ゆえに入れ替わりに気づいてしまう!
もはやただの一般人、静流の個人的な下僕となった匠くんが誘拐犯になりたいって言ってるところがとにかくいい。
そこから再開発ものっぽい展開になり、いかにも悪~い政治家が出てきて学校を収益優先の体質に改善、ふたりの思い出の場所である庭園も更地にして新校舎を建てるとかいいだすのだが、それを止めるために生徒たちがみんな協力してくれるって展開がアツい。敵役がただの私利私欲まみれのアホとして描かれてなくて、向こうにも一理あるし、最終的には話がわからないわけではないものとして扱われてるのもバランス感覚だ。
なによりも最後に降るはずのない雪が降るのがいい。純然たる奇跡がまるで奇跡じゃなくみえるなら、それはもういいシナリオの証拠だ。
文章表現もレベルが高い。ネトラセデートを見守っているシーンの、

執事服のネクタイで、首元が苦しい。

なんかはとくによかった。
たぶん J・さいろー氏担当のルートなのであろう。

灯里
家のために犠牲になる……妾腹の子……?
芳乃やあやせは灯里を因数分解して生まれたキャラなのか?
それはともかく告白されてるのをみて嫉妬するとかお見合い話がきて恋心を自覚するとか看病で好感度が上がるとかなんかまるでエロゲーみたいですね。エロゲーですが……。
父親との間でお見合いは断る、匠くんとお付き合いしていくということで決着がついたはずが悪~い取締役が出てきてお見合いの話をまた持ち出してくる。
まさかデューデリジェンスの授業が伏線だったとはな…………。
他ルートだとウザめのコメディリリーフだったお父様に見せ場があったのがいいところ。
全体通してエロゲーのシナリオの教科書!みたいなかんじ。

瀬奈
この処女レベル高い!
両親が幼少のころに死んで引き取られた養父母の家庭になじめなかったことを引きずってるメンヘラに居場所を作ってあげる話。シナリオ全体の大きな事件みたいなのはなくて、瀬奈が不安になる→スパダリ匠くんが癒すというのを大波小波を繰り返しながらやっているかんじだ。
とはいえ起伏がなくてつまらないかといわれると髪留めの話とかはやっぱりお上手だと思うよね。
しかし主のルートでは健気に尽くしていた従者の心内がじつはどろどろしていたというのはやっぱりいい。はあはあ。
でも告白してすぐ理事長室でエッチするのはどうかと思うし、ローター入れたまま仕事するのもどうかと思うし、職場のお風呂場でマットプレイするのもどうかと思います!!!!
ラストのみんなが開いてくれた本物じゃない結婚式 CG はやっぱり感動してしまう。天音ルートの余波がまだあるため…………。

総評
ヤクザとうにゅでこのゲームどうしようかと思ったが、静流、灯里シナリオは完成度が高かったし、瀬奈はドえっちだったしでけっこう満足しました。
灯里ルートの個別 BGM, 弦楽四重奏で笑っちゃった。エロゲの BGM で弦楽四重奏なことある?

*1:カノンコードやないかい!

*2:そもそも保科くんはほかのルートでは能力で心が読めてしまうからこそ及び腰になったりもしているので、このゲームが主張したいのは、ひとの感情を知覚できる/できないのを理由に恋に憶病になる必要はない、というようなことではなく、ひとは恋をすると何かと理由を見つけて憶病になりがちだ、というところになる。

*3:Restart

*4:Another

*5:Original

*6:R 保科くんが O 保科くんと A 保科くんの両方の意識をふたつとも、あるいは統合した形で持っている可能性もあるが、これがどのような常態であるのか想定することは難しい。ふつうそれはなんらかのひとつの意識が連続しているのではなく、そういう種類の新しい別の意識が誕生したというふうに捉えられるだろう。

*7:人格の同一性が数的な同一性を意味するなら。そして、複数の異なるものが数的に同一であり得るのは同一時間軸上の別の時点に存在する同一のもの同士だけであって、異なる時間軸上にある異なる存在者同士の間に同一性関係は成立しないとするのであるなら。

*8:『愛の哲学的構成』は品切れして Amazon で高値が付いてるし、へんなレビュー書かれてるしでちょっとかわいそうだ。