Akiapola'au

読んだ本のメモ ネタバレは自衛してください

2024/12

12/1

ツカサ『お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか? 3』(ガガガ文庫)

おれは面白がって読んでるけどそんなにバカ売れしてるかんじもないし打ち切りはあるだろうな~と思ってたら終わってしまいました泣泣泣
けっこう続刊を楽しみにしてたのにな……。まぁでもしっかり完結までやらせてもらえたし風呂敷も畳み切ったしで幸福なほうの終わり方でしょう。
登場人物紹介が「混河」の苗字がずらっと並ぶ異様なものになってていい。一族で殺人が起こるタイプのミステリはこの身もふたもない絵面の人物紹介がやっぱウリだよね。混河家家長殺人事件は監視カメラの密室と天井にこびりついたまま垂れてこない血というなかなか不可能趣味のあるいいかんじの謎なのだが容疑者全員特殊能力者なので主人公は早々にハウダニットをあきらめてホワイダニットに移ると宣言してしまう。現代風ですね。お父様がじつは女性だったというのは初期に読者に明かされてるのだが、家のものはほとんどそれを知らず、しかし知らないということを主人公が知らず、事情聴取をするうちにあれこいつらお父様が女性だということを知らないな……? でもなんか一人だけ知ってるやつがいるな……? というので犯人を特定するのだが、なんかこれが……アイディアはいいのに面白くない! やっぱりお父様が女性だったというのは隠しておくべきだったんじゃない? ハウダニット部分はたしかになんでもありでワロタ。風神雷神の電気を操る能力で監視カメラを誤魔化しましたは……思い切りが良すぎるだろ。
お父様殺人事件が終わると町一つ消滅した事件と幼馴染とお兄様の謎がまとめて解決される。こっちは結構面白かったがちょっと尺が短すぎて伏線が出てきては回収されというので忙しい。お兄様が悪魔でなかったことの証明とかいい素材だったと思うので毒の種類とかいろいろ本格っぽい仕立てでやってほしかった。ミステリにできるいい素材を尺の都合で推理抜きに*1真相が降ってくるのでもったいないかんじ。
夕緋ちゃんはかわいかったね。ほかの義妹たちは……あんまり。一巻ごとに妹が増えていく構成はべつに最初から決めていたわけではないらしい。それどころかべつにツカサ先生は妹フェチでもないらしい。嘘をつくな!!!!

12/2

黒田研二『神様の思惑』(講談社文庫)

『家族パズル』が読みたくてずっと探してたんだけど見つかんなくてなんでやろな~と思ってたら文庫化で改題してこのタイトルになっていたらしい。講談社は短篇集を文庫化するときに表題作を変えるこざかしい真似をやめろ~~~!!!!!! 間違って買っちゃうバカと気付かなくて買う機会を逃すバカだったら後者の方が多いだろうから損失でもあるだろ。ヘイト企業がよ。

「はだしの親父」
あーいい話や。金魚の謎と春彦の涙の謎は簡単すぎて(というかタイトル通りなので)すぐわかっちゃうのだがそれを踏まえてるおかげで病院の謎が際立って良い。葬式組曲の「父の葬式」とか赤村崎葵子のあれとかさ~おれはこういうのに弱いんだよな~……。

「神様の思惑」
おわ~いいっすね。高所恐怖症ネタはありきたりであんまり……というかんじだが、「なぜ犯してもない罪を自白するのか」というホワイダニットに庇い立て以外の回答があると……うれしい!!

「タトウの伝言」
なんか急にミステリじゃなくなって白乙一みたいな芸風になっちゃった。オレオレ詐欺のとこの描写があまりにも現実的でなく、なんだかにゃんというかんじ。

「我が家の序列」
犬を……死なすな!!!
家でこっそり犬飼ってるのに気づかないくらい仕事人間やってるのにとつぜんリストラされるってのがどうも意味不明だし三か月犬の散歩したくらいで痩せたりせんだろとか思ったけどまぁいい犬が活躍するからいい話か。でも犬を死なすな(あたしが悲しいため)!

「言霊の亡霊」
あ~ガードナー・ドゾワの "Morning Child" みたいな……。いちばん出来がよかった。過去の記憶が内部で矛盾して虚偽記憶が解体されるのめちゃ面白いし、そこからもうひとひねりあるのもお見事だ。矢樹先生にポジティブビームを打ち込みまくったらこういうのが出力されそうですね(?)。

12/4

森田邦久編『分析形而上学の最前線』(春秋社)

人格*2の同一性、運命論、死の害悪のタイミング問題、Truthmaker 説のもっともらしさについて。
横路先生がまた性が無規定な存在者にランダムに彼・彼女を割り当てるキモい文体を使っててほんとにやめてほしいなと思った。人格の同一性をうんぬんしたあとにパーソン論で人工妊娠中絶はすくなくとも殺人ではないみたいな用途があるよね~って持っていくのが時代遅れ過ぎてびっくりする。いや横路先生は「すくなくとも殺人ではない」といえるかもしれないといっているだけでここはメインの主張でも何でもないのだが、……。
運命論の章はじゃっかんハードすぎてついていけなかった。あたしたち銀座のオカマはわざわざ論理式を日本語に書き下さない。死の害悪のタイミング問題についてはほかの章よりもさらに定義の問題じゃね感を覚えた。Truthmaker 説についてはそれが成立するとどううれしいのかがいまいちよくわからず、べつに Truthmaker なる存在者が真理を説明しなくても実在の様態が真理の根拠になってて何が悪いん?と素朴に思ってしまった。いやもちろん TM 理論のメリットはさんざん説かれてもいるのだが、この章だけ論者ふたりとも TM にやや懐疑的でほかの章にくらべて意見の対立が小さいため、なおさら……。

12/5

逆井卓馬『よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート』(電撃文庫)

いっこめの桜の謎はよかったね。見る場所違ってただけじゃんという解決はあんまり面白くなくてもカタクリを使ってそこにたどり着くのがめちゃおもろい。伏線の置き方としても堂々としていてしかもそれと悟らせないかんじでクールだ。二個目の新歓の謎は急にしょぼ日常の謎あるあるになってしまう。うーん。そこからは失速に次ぐ失速というかんじでハムスターは謎解きですらないし現実的でない操りがうんぬんのラストはだめ絡新婦というかんじ。あんまり面白くなかったな。ていうかヒロインがぜんぜんかわいくないというか、なんのためにこの小説に出てきているのかいまのところまったくわからない。

12/6

石崎幸二『日曜日の沈黙』(講談社ノベルス)

なんかノベルスという媒体そのものに異常に愛着のある謎の集団いるよな。推理は面白いとかいうより脳トレというかんじだが女子高生に懐かれながらパズルやんの楽しいだろうな~という気持ちに……。

12/7

石崎幸二『あなたがいない島』(講談社ノベルス)

前作と読み味がまったく一緒ですごい。二作目ではやくも確固たる作風を確立している。こんかいは人が死ぬんかいという感じでちょっと面食らったが意外な共通点という推理とやや無茶のある事件の構図の黒幕という構成は前作とおなじ。

12/7

横田創『埋葬』(中公文庫)

こ、これは……よくわからん。しっかり読めばなんかあるんだろうけどめんどいな……みたいなのにしっかり取り組む元気がもうないんですこっちは。すいません。盗癖のやつはおもろかったです。

12/9

吉田和彦『言葉を復元する』(ちくま学芸文庫)

なんかいまだに喉音理論ってよくわかんないんだよね。ザ・教科書という感じのお堅い文体だがこれでも吉田先生的には一般向けに書き直したというのがちょっとウケる。ネイティブ直感がはたらく日本語と琉球語でやってる『日本語・琉球諸語による 歴史比較言語学』のほうが素人にはとっつきやすかろうな。そういえばぜんぜん関係ないがさいきんなんか琉球語の調査はよく進んでるけどウチナーヤマトゥグチの研究はだれもやっとらんみたいな話を note でよんだ。https://note.com/lingfieldwork/n/n5476b49cc337

12/10

ケリー・リンク『白猫・黒犬』(集英社)

むかしいまよりもうちょっと英語をまじめに勉強してた時期にだいたい読んだことあるやつだった。しかしなんだかリンク先生もかつてほどの魔力を放ってるような気はしないのだが……。まぁでもおとぎ話モチーフで面白い話書ける人類って存在しないししょうがないか。リンク先生はじつはさいきん長篇をはじめて出しており、どうなんすかねえ。面白いのかな。640 ページもあって goodreads で平均 ☆ 3.5 だとちょっとさすがにためらってしまう。

12/12

アガサ・クリスティ『象は忘れない』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

なんかとつぜんクリスティ読みたくなって本棚にあったやつをてきとうに手に取ったらクリスティ最晩年の作らしく……。スリーピングマーダーものって過去の事件を解き明かすのにフレッシュな死体よりも困難があるけれどロジックでなんとかしちゃうよーんという魅力が欲しいんだけどこれは老い!!というかんじの省力プロットで、バカみたいに記憶力のいい老婆たち、ほいほい過去の事件の再捜査に協力する警察関係者、天下り式に真相を語る事件関係者にそれぞれ訪問してるうちに話が終わってしまう。なんじゃいこれは~。

12/14

ジャック・デリダ『死を与える』(ちくま学芸文庫)

八年ぶりくらいに?再読した。ロゴスがなければ責任を取るという次元に立つことはできないがロゴスという客観に依りかかれば普遍化されて個人的な責任ではなくなってしまうみたいな洞察は一瞬なるほどな~と思うものの不可能なものとしての可能性の経験とかそういう意味不明なことを言いたいがために倫理とも道徳とも切り離された謎の抽象概念としての『責任』を持ち出されてもそんな『責任』がわれわれとなんの関係があるんですか?という気持ちになってしまい、ダメだった。アポリアがあるんじゃなくてアポリアを抱えるように作った謎の概念があるだけにしかみえない。純粋な贈与の不可能性とかそういうのもよくわかんなくて、見返りや負い目があったらなぜそれが贈与じゃないのかがよくわからない。デリダ話法を使えばたいていどんなものでも不可能なものの可能性の経験にできるようなきがして、たとえば恋愛とかも個人を諸特徴に還元しなければ特殊性が生まれないのに、かえって諸特徴への選好のせいで代替可能なものとなってしまう――みたいないい加減なことがすぐにいえる。なんだかデリダは常に素粒子としてのモノポールを探して不可能だ不可能だといっているようなかんじがする。デリダさんやデリディアンさんたちからしたらあたしみたいな読者はお呼びでないんだろう感がいつもすごい。うるせー脱構築千本ノック。一年生はグラウンド出て差延百周追加な。

12/15

ダン・ザハヴィ『初学者のための現象学』(晃洋書房)

間主観性は擁護できるのか? 次回、現象学死す。デュエルスタンバイ!

12/16

宮内悠介『暗号の子』(文藝春秋)

なんかふつうのエスエフ作家みたいになっちゃっててあんまりわくわくしなかったが(いまだに盤上の夜が最高傑作だと思っててすみません)、読んでてバランス感覚が、あるな~というかんじがすごいのでなんか奇妙だった。偏りの欠如としてのバランス感覚ではなく、バランス感覚という感覚の過剰としてのバランス感覚、というか……。
SNS 時代の社会学みたいなことにまったく興味がなく、SF でそういうのをやってもらってもほんとにぜんぜん興味がわかない。そーゆーのはコリイ・ドクトロウのブログで間に合っちゃってるし。まぁでもあくちゅありちー中毒になってるひとへのメタ的な言及もあり、現代社会に興味がもとからあるひとからしたら興味があるものが書かれている上にそれに酔うことへの牽制もあって非常に気持ちいいだろうなぁと思った。
扱われてるモチーフが似通ってるのもいちいちまったくちがうことをやってほしい派としてはやや不満だった。
というわけであたし的には短篇集中ではやや浮いてる「行かなかった旅の記録」がいちばんよかった。

12/17

畑野ライ麦『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい 2』(GA 文庫)

めちゃ微妙笑
正妻が確定してるのにサブヒロインがわらわらいるせいで、正妻とのシーンは紙幅が足りず、サブヒロインたちは精神分裂病的な振る舞いをし、登場人物たちの振る舞いの動機やシーンの関節は次々に複雑骨折していくという、続くと思ってなかったラブコメのだめな二巻あるあるをこれでもかと見せつけられている。
よくわかんない巨乳のライバルが出てきて謎の理屈で詩バトルやることになって前作負けヒロインとかメイドとかとよくわかんない会話をしてるうちにバトルやってよくわかんないけど折り合いがついたことになって終了。話のいちいちどうしてそうなる?というのが説得力がなく、なんでサンタくんはモトカの側について歌合に出るのかごちゃごちゃ言ってるけどこじつけめいていて意味不明だし(もちろん現実的にはサブヒロインのモトカとの絡みを増やすためというのが第一であってごちゃごちゃいってるのはただの言い訳である)そこまでして出したサブヒロインなのにスクイがメインなのはもちろん変わらないので、無軌道にサブヒロインを増やしても話が散漫になるだけだし、というかじっさいになってるし、メインはスクイだけど各巻ではサブヒロインを掘り下げて愛着をもたせよーねみたいな綱渡りにがっつり失敗している*3。一巻でほぼ両想いみたいなとこまで行ってしまっているとそっから複数ヒロインラブコメやるのは端的にいって無理だろう。スクイとモトカの確執みたいなのもぜんぜん弱い。スクイが手毬に会いに行くあたりははっきりいって書いてる方もわけわかってないんじゃないかってくらいなにがしたいのかよくわからなかった。手毬もモトカもなんならメイドさんも隙あらば狙っちゃうからね~みたいな匂わせをしてくるが、サンタくんがなびくとは思えず、ぜんぜん盛り上がらない。一巻後半はツイストあり和歌ラッシュありで謎のスピード感があったがこの歌合せのシーンのあまりの気の抜け方はなんなんじゃい。

12/24

フィリップ・ロス『プロット・アゲンスト・アメリカ』(集英社文庫)

うお~んおもしろい。深い人間理解だ……。いままでロスってコロンバスとか野球とかしか読んでなくてあんま合わないかなとかかってに思ってたんだけどこういう重厚長大路線もお上手なんですねえ。
反ユダヤ主義者としての一面もあった空の英雄リンドバーグがもし大統領になっちゃったら、という点 "だけ" を変えて 40~42 年のアメリカを描くというゲームを大文豪が真剣にやっとる。出てくる人間全員実在の人物って知ってびっくりしちゃったよ。
ロス家のひとたちがひとりでも死んだらやだよ~って本気で手に汗握りながら読んじゃったもんね。すごい小説ですわ。

12/26

ジェフ・ヌーン『ヴァート』(ハヤカワ文庫 SF)

び、び、び微妙~~~。サイバーパンク育ちの SF キッズが書いたラノベってかんじ……。トリップした世界に大切なものを忘れてくると現実世界にあちらの世界の等価物が送り込まれるっていう設定あたりはわくわくしたけど妹探しのテーマがぜんぜん進まず、いや話は右に行ったり左に行ったりするけど RPG のおつかいやってるみたいでなんか進んでる感がないまま微妙なオチに行きついてしまうのでなんだかなぁという。てか花粉戦争が続編なのは知ってたけど未来少女アリスもそうなんだ。レーベルが FT だからちがうシリーズかと思っていた。

12/27

エトムント・フッサール『現象学の理念』(作品社)

えとむんご本人の書いてるもんをみないとわからんのかなと思い読むもやっぱりわからず……。わかってあげられなくてごめんフーたん。

12/31

いにしえの妹萌えオタクが実妹ヒロインちゅったらこれよねと挙げていた。そうなん?

吉村夜『黄昏の刻 しろがねの転校生』(富士見ファンタジア文庫)

稀人(レア・サピエンス) ← いや人の意味があるのはホモのほうやろが~い笑
軽薄、スケベ、チート、イケメンお兄様のご転校だ~! 初手ヒロイン誘拐でとりあえずテンプレというかんじよね。ももちさんがなかなかいい味を出しておられてそこがよいのだ。

――――『黄昏の刻 2 七色の刺客』(富士見ファンタジア文庫)

炎のパワー系の敵の次はなりすまし能力ということでトリッキーなかんじに。しかし頭脳戦があんまり面白くなく……。

――――『黄昏の刻 3 赤熱の巨竜』(富士見ファンタジア文庫)

だんだん切羽詰まってきて面白くなってきた。このあたりから銀嶺くんが初期の軽薄さを失い悲愴な覚悟で理念のために討ち果てるタイミングを待ってる感じになってしまう。戦車萌えはあたしにはあんまりよくわからなかったが手長足長のキャラはまじでかっこいい。この小説超能力バトルとしてけっこうおもしろいが主人公の能力だけ工夫とかいっさいなしのパワー系なのがやや残念だぜ。

――――『黄昏の刻 4 漆黒の戦慄』(富士見ファンタジア文庫)

うおお面白い。特別な力を持つ少数派への陰に陽に行われる差別とか忌避感を描いてこのままだと戦争になっちゃうかもねというところから戦争に至るまでの経過の書き方が上手だからこそ戦争が面白くみえますね。やたら地についたアメリカ政治描写がウケる。
足長のおっさーん!

――――『黄昏の刻 5 黄金の旅路』(富士見ファンタジア文庫)

足長のおっさーん!! 前半の描写はかなり凄絶で、サングラスのお友達が土下座するとことかちょっと泣いちゃったもんね。この小説脇役の男たちがみんなかっこよすぎる~。
しかしまさか主人公が前巻で死んだまま最後まで進むとは思ってなかった。チート持ちの主人公亡きあと強大な敵にどう立ち向かうのかていうのは面白いがひとりづつ討ち死にしていってヤマタノオロチの首を一本づつ切り落としていくというのはどうにも。
そして夢オチというか神オチというかフェッセンデンの宇宙になってしまうのはあんまり好みではないのだがヒロインがさいごにいかようにも世界を作り変えられるようになったのに、超能力だけがなく、あくまでお兄様と血がつながってるところまでおなじ世界を望んだというところが実妹のオタクたちてきには高評価なんでしょうな。あたしも同意見です。

*1:いやもちろん葉介くんは推理してるのだがわれわれは推理できない。

*2:本書では person に「人」という訳語が与えられているがなんとなくあたしは「人格」のほうがなじみがある。形而上学の人たちからすると倫理学っぽい言葉遣いなんでしょうね。

*3:青を欺くの二巻はがっつり成功している。